先コロンブス期のイースター島住民と南アメリカ大陸先住民との交雑の検証

 これは10月21日分の記事として掲載しておきます。先コロンブス期のイースター島(Rapa Nui)住民と南アメリカ大陸先住民との交雑の可能性を検証した研究(Fehren-Schmitz et al., 2017)が報道されました。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。先コロンブス期におけるポリネシア人と南アメリカ人との接触は、考古学的証拠により支持されてきました。ペルーでは8000年前頃に南アメリカ大陸原産のサツマイモが栽培化され、ポリネシアでも紀元後1000年頃から拡散し、先コロンブス期においてすでに広範に栽培されていたからです。

 遺伝学的にも、先コロンブス期におけるポリネシア人と南アメリカ大陸先住民との接触の可能性が指摘されています(関連記事)。イースター島の現代人のゲノム解析の結果、アメリカ大陸先住民由来の断片化された短い配列が確認されたので(イースター島の現代人のゲノムにおけるアメリカ大陸先住民集団由来の領域の割合は推定8%)、イースター島の現代人の祖先集団とアメリカ大陸先住民集団との交雑は古い時代のことだ、と推測されました。イースター島のポリネシア人とアメリカ大陸先住民が交雑したのは19~23世代前(暦年代では紀元後1280~1495年)、イースター島の住民とヨーロッパ人との交雑は紀元後1850~1895年と推定されています。イースター島にポリネシア人が到達したのは遅くとも紀元後1200年、ヨーロッパ人が初めて到達したのは紀元後1722年とされています。

 この研究は、イースター島の現代の住民のDNAではなく古代DNAを解析し、先コロンブス期のポリネシア人とアメリカ大陸先住民集団との交雑という仮説を検証しています。解析されたのは、イースター島のアナケナ(Anakena)海岸のアフナウナウ(Ahu Nau Nau)で発見された5人(RN035・RN036・RN037・RN039・RN041)です。放射性炭素年代測定法による較正年代(信頼度95.4%)は、いずれも紀元後で、RN035が1445~1620年、RN036が1458~1624年、RN037が1815~1945年となります。RN037は性別不明ですが、他の4人は全員男性です。

 DNA解析の結果、5人の完全なミトコンドリアDNA(mtDNA)配列が得られましたが、常染色体については低網羅率の配列しか得られませんでした。mtDNAのハプログループに関しては、5人ともポリネシア人によく見られるB4系統(B4a1a1)に区分されます。常染色体のDNA解析でも、5人とも現在および過去のポリネシア人の遺伝的多様性の範囲内に収まり、アメリカ大陸先住民集団との交雑の痕跡は確認されませんでした。そのためこの研究は、先コロンブス期のイースター島の住民のゲノムにはアメリカ大陸先住民集団由来の領域はなく、それは先コロンブス期よりも後にもたらされたのではないか、との見解を提示しています。

 この研究は、以前の研究との見解の不整合にたいして、イースター島を標的とした植民地の奴隷商人たちはペルー出身で、ヨーロッパ人と南アメリカ大陸先住民は16世紀以降交雑していたことから、奴隷商人たちが18世紀と19世紀にイースター島に到達した時、彼らのゲノムのアメリカ大陸先住民由来の領域はすでに断片化されて短くなっており、イースター島住民に継承されたのではないか、との解釈を提示しています。また、捕鯨船の影響も指摘されています。ただ、この研究はあくまでもイースター島の事例であり、先コロンブス期のポリネシア人とアメリカ大陸先住民集団との交雑が、ポリネシアの他の古代DNAの解析により実証される可能性は、きょくたんに低いわけではないように思います。


参考文献:
Fehren-Schmitz L. et al.(2017): Genetic Ancestry of Rapanui before and after European Contact. Current Biology, 27, 20, 3209–3215.
http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2017.09.029

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