『カラー図解 進化の教科書 第3巻 系統樹や生態から見た進化』

 これは9月17日分の記事として掲載しておきます。カール=ジンマー(Carl Zimmer)、ダグラス=エムレン(Douglas J. Emlen)著、更科功・石川牧子・国友良樹訳で、講談社ブルーバックスの一冊として、2017年8月に講談社より刊行されました。原書の刊行は2013年です。第1巻(関連記事)と第2巻(関連記事)については、すでにこのブログで取り上げています。第3巻は系統樹・遺伝子・種間関係・生態の進化を重点的に解説しており、第9章「系統樹」・第10章「遺伝子の歴史」・第11章「遺伝子から表現型へ」・第12章「種間関係」・第13章「行動の進化」という構成になっています。

 人類も含めて生物進化の系統樹が一部の人の誤解を招きやすいことは、以前このブログでも取り上げました(関連記事)。本書は系統樹の作成法と見方を基礎から解説しており、たいへん有益だと思います。系統樹の解説では人類の進化も一事例として取り上げられており、人類の進化が生物の進化の中に位置づけられ、他の生物と同様に表現型により進化系統樹が作成されている、とよく理解できるようになっています。ただ、脳の大型化については、現生人類(Homo sapiens)系統のみならず、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)系統でも独立して起きた可能性が高い、ということも指摘されているとよかったように思います。

 第10章でも遺伝子に基づく系統樹が解説されていますが、遺伝子の系統樹と種の系統樹とが一致しない場合もある、との指摘は私も含めて非専門家層にはたいへん重要だと思います。遺伝子の系統樹では現代人のミトコンドリアDNA(mtDNA)の事例が取り上げられており、非専門家層の読者にとってより身近な話題を取り上げよう、との意図が窺えます。近年、この分野の研究の進展は目覚ましいので、本書の日本語改訂版が刊行されるのだとしたら、どのような解説になるのか、楽しみでもあります。

 第11章では、遺伝子と表現型との複雑な関係が解説されています。生物における遺伝子発見の仕組みの共通性と、わずかな変化が表現型の変化をもたらすことが解説されており、進化学の妥当性を改めて教えられます。この分野は不勉強だったので、今後繰り返し読むつもりです。第12章では、人間も含めて生物が他の多くの生物との相互作用で生存・進化してきたことが解説されています。人間の場合は、腸内細菌叢が最近注目を集めてきているようですが、細菌との共生なくして人間は生きていけない、ということは強く認識しておく必要があるでしょう。

 第13章では、行動も生物の表現型であるとの認識を前提に、生物の行動がどのように進化してきたのか、解説されています。ここでは人間の事例がとくに大きく取り上げられているわけではありませんが、細菌・昆虫・爬虫類などさまざまな生物の事例が取り上げられており、読み物としても面白くなっていると思います。この『カラー図解 進化の教科書』は本書で完結となりますが、より理解しやすい解説を意図しつつ、安易な簡略化もなされていないように思われ、読み物としても面白いことから、現時点での一般向けの進化学の入門書としてお勧めと言えるでしょう。もちろん、本書の内容は今後「古く」なっていくのでしょうが、系統樹など基礎的な解説は長く読み続けられるだけの価値があると思います。


参考文献:
Zimmer C, and Emlen DJ.著(2017B)、更科功・石川牧子・国友良樹訳『カラー図解 進化の教科書 第3巻 系統樹や生態から見た進化』(講談社、原書の刊行は2013年)

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