遺伝的に多様なパプアニューギニア人

 これは9月16日分の記事として掲載しておきます。ニューギニア島の住民の遺伝的多様性に関する研究(Bergström et al., 2017)が報道されました。ニューギニア島の住民は、言語でも遺伝子でも多様性が高いことで知られています。この研究は、パプアニューギニアの85の言語集団の385人からゲノム規模の一塩基多型データを得て、パプアニューギニア人の地理的な遺伝的構造を解明しました。その結果、ニューギニア島では高地集団と低地集団とが2万~1万年前頃に分岐し、高地集団には非ニューギニア島人との交雑の痕跡が見られない、ということが明らかになりました。

 ニューギニア島では1万年前頃より植物栽培が始まり、高地集団は過去1万年間に主要な3集団に分かれ、低地集団は北部と南部の主要な2集団に分かれます。一般的に、農耕が始まると新技術を携えて集団が拡大していき、遺伝的に均質化する傾向にあるのですが、ニューギニア島では植物栽培の開始以降も各集団が遺伝的独自性を保持し、現在の遺伝的多様性が形成されました。ニューギニア島の多様な言語は遺伝的多様性を反映したものだろう、と指摘されています。

 高地集団に関しては、山岳地帯が交流の地理的障壁になったのではないか、と考えられてきましたが、低地集団でも植物栽培開始以降も遺伝的独自性が保持されており、地理よりも、戦争や集団内の婚姻といった文化の方が障壁として大きな役割を果たしていたのではないか、と推測されています。この研究で明らかになったニューギニア島の住民の遺伝的多様性は、農耕の拡大が遺伝的均質化を促進するとは限らない事例を示している、と言えるでしょう。


参考文献:
Bergström A. et al.(2017): A Neolithic expansion, but strong genetic structure, in the independent history of New Guinea. Science, 357, 6356, 1160-1163.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aan3842

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