青銅器時代のミノア人とミケーネ人のDNA解析(追記有)

 これは8月4日分の記事として掲載しておきます。青銅器時代のミノア人とミケーネ人のDNA解析に関する研究(Lazaridis et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。これまでの古代DNA研究で、初期ヨーロッパ農耕民の主要な祖先は、紀元前7千年紀からギリシアと西部アナトリア半島に居住していた、複数のきわめて類似した新石器時代の集団とされています。それ以降、青銅器時代までのこれらの地域の歴史についてはさほど明確になっておらず、ギリシア本土とクレタ島の集団間の遺伝的類似性の程度と、これらの集団と他の古代ヨーロッパ人集団や現代ギリシア人との類縁関係などが曖昧なままでした。

 この研究は、紀元前2900~1700年頃のクレタ島の10人、紀元前1700~1200年頃のミケーネ文化の4人、紀元前2800~1800年頃の南西部アナトリア半島の3人、ミケーネ人到来後のクレタ島の1人、「文明」出現前となる紀元前5400年頃のギリシア本土の1人のゲノム規模のデータを解析しました。その結果、ミノア人とミケーネ人が遺伝的によく類似しており、遺伝子プールの3/4は西部アナトリア半島およびエーゲ海地域の最初の新石器時代農耕民に、残りの大半はコーカサスおよびイランの最初の新石器時代農耕民に由来する、と推定されています。

 しかし、ミノア人とミケーネ人の違いも明らかになっています。ミノア人とは異なってミケーネ人には、青銅器時代のユーラシア草原地帯またはアルメニアの集団からの遺伝子流動が確認されました。また、現代ギリシア人がミケーネ人と共通祖先を有しつつも、新石器時代前期の祖先からの系統がさらにある程度希釈されたことも明らかになりました。新石器時代~青銅器時代にかけて、エーゲ海地域の人類集団は継続的だったものの、孤立してはいなかった、とこの研究では指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【ゲノミクス】ミケーネ人とミノア人

 ギリシャ本土出身のミケーネ人とクレタ島出身のミノア人を含む古代のヨーロッパ人種とアナトリア人種(合計19名)のゲノムデータを報告した論文が、今週のオンライン版に掲載される。この新知見は、青銅器時代にエーゲ海地方に出現し、ホメロスとヘロドトスに始まる古代の詩と歴史の伝統によって知られた最古の2つの著名な考古文化の起源に関する新たな手掛かりとなっている。

 これまでの古代DNA研究で、初期ヨーロッパ農耕民の主たる祖先は紀元前7千年紀からギリシャとアナトリア西部に居住していた複数の極めて類似した新石器時代の集団とされている。それ以降、青銅器時代までのこれらの地域の歴史については、それほど明確になっておらず、ギリシャ本土とクレタ島の集団間の遺伝的類似性の程度とこれらの集団と他の古代ヨーロッパ人集団や現代ギリシャ人との類縁関係など数々の疑問が残っている。

 今回、Iosif Lazaridisたちの研究グループは、合計19名の古代人(紀元前約2900~1700年のクレタ島出身のミノア人10名、紀元前約1700~1200年のギリシャ本土出身のミケーネ人4名、紀元前約2800~1800年のアナトリア南西部の出身者3名を含む)のゲノム全域のデータを解析した。その結果、ミノア人とミケーネ人が遺伝的に非常によく似ており、その約4分の3がアナトリア西部とエーゲ海地方の最初の新石器時代の農耕民を共通祖先としており、残りの大部分が古代のコーカサス地方とイランの集団を祖先としていることが判明した。一方、ミケーネ人は、ミノア人とは異なり、青銅器時代にユーラシアのステップ(東ヨーロッパと北ユーラシアを含む地域)に居住していた人々を祖先とする者もいた。また、Lazaridisたちの解析では、現代ギリシャ人がミケーネ人と共通の祖先を持ちつつも、新石器時代前期の祖先からの系統がさらにある程度希釈されたことも判明した。



参考文献:
Lazaridis I. et al.(2017): Genetic origins of the Minoans and Mycenaeans. Nature, 548, 7666, 214–218.
http://dx.doi.org/10.1038/nature23310


追記(2017年8月10日)
 本論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



人類学:ミノア人とミケーネ人の遺伝的起源

人類学:青銅器時代のヨーロッパ人の遺伝的祖先

 ヨーロッパにおいて青銅器時代に出現した最も著名な文明には、いずれもエーゲ海地域である、クレタ島のミノア文明やギリシャ本土のミケーネ文明などがある。I Lazaridis、D Reich、J Krause、G Stamatoyannopoulosたちは今回、ミノア人、ミケーネ人、およびその東部に位置する南西アナトリアに由来するの人々を含む、古代人19体の新しいゲノム規模のデータを解析することで、これら2つの考古学的文化の起源を調べた。ミノア人とミケーネ人は西アナトリア人やエーゲ海地域の人々を共通祖先としていて遺伝的に非常に類似しているが、ミケーネ人はさらに青銅器時代のユーラシアのステップ地域の居住民と類縁関係がある祖先を持つという違いがあることも分かった。

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