リアンブア洞窟におけるラットの身体サイズの変化

 これは8月16日分の記事として掲載しておきます。2017年度アメリカ自然人類学会総会(関連記事)において、インドネシア領フローレス島のリアンブア(Liang Bua)洞窟遺跡のラットの身体サイズの変化について(Veatch et al., 2017)報告されました。PDFファイルのP393に掲載されています。フローレス島のリアンブア(Liang Bua)洞窟遺跡では後期更新世の人骨群が発見されており、発見当初は、新種なのか、それとも病変の現生人類(Homo sapiens)なのか、という激論が展開されました。しかし現在では、この人骨群をホモ属の新種フロレシエンシス(Homo floresiensis)と区分する見解がおおむね受け入れられているように思われます。当初、フロレシエンシスの下限年代は17000年前頃もしくは13000~11000年前頃と推定されましたが、昨年(2016年)、人骨の下限年代は6万年前頃、フロレシエンシスの所産と考えられる石器群の下限年代は5万年前頃と見直されました(関連記事)。

 リアンブア洞窟では、過去19万年間分の多くの脊椎動物遺骸が発見されており、そのなかには、ラットなどネズミの少なくとも5属に属する23万個以上の遺骸も含まれています。これらのネズミの体重は72g~1500gとかなり変異幅があります。この研究は、これらのネズミがフローレス島における過去19万年間の気候や生態系の変化を反映しているのではないか、と推測して分析しました。測定されたのはラットの大腿骨10212個・上腕骨1474個・踵骨372個で、現存する東南アジアのネズミと比較されました。

 その結果、6万年前頃に起きた火山噴火の前後にラットの身体サイズの分散に大きな変化が生じていた、と明らかになりました。この研究は、ラットの身体サイズの大きな変化には、フロレシエンシスや他のフローレス島固有の生物群を絶滅に追いやった過程が反映されているのではないか、と示唆しています。またこの研究は、人類遺跡の古環境・古生態系の解釈にさいして、小型哺乳類群の重要性を指摘しており、今後、広範な地域で同様の研究がさらに進展することを期待しています。


参考文献:
Veatch EGH. et al.(2017): Shifts in the distribution of rat body sizes through time at Liang Bua: New paleoecological insights into the extinction of Homo floresiensis and other endemic taxa. The 86th Annual Meeting of the AAPA.

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック