ケニアで発見された中期中新世の類人猿化石(追記有)

 これは8月11日分の記事として掲載しておきます。ケニアで発見された中期中新世の類人猿化石に関する研究(Nengo et al., 2017)が報道されました。2017年8月10日付の読売新聞朝刊でも報道されています。2300万~530万年前頃となる中新世には30属以上の40種以上の類人猿が存在していました。しかし、完全な頭蓋の証拠から得られた知見はきわめて少なく、顔および口蓋以外の頭蓋要素から知られている種はわずかで、人類および現生類人猿の直接的な近縁種の頭蓋の状態に関する情報は限られています。こうした情報の欠如はアフリカにおいてとくに顕著で、1400万~1000万年前頃の頭蓋標本はまったく知られていません。

 この研究は、ケニア北西部のナプデト(Napudet)遺跡で発見された中期中新世の幼児の類人猿のほぼ完全な頭蓋化石(KNM-NP 59050)を報告しています。この頭蓋はレモンと同じくらいの大きさで、年齢は1歳4ヶ月と推定されています。年代は1300万年前頃と推定されているので、アフリカの類人猿化石の空白期間を埋めるものとなります。この類人猿はニャンザピテクス属の新種アレジ(Nyanzapithecus alesi)と分類されました。アレジにはテナガザル類との類似点が若干認められるものの、こうした類似性は収斂によるものである可能性が高く、アレジは人類およびアフリカの現生類人猿の共通祖先の近縁種ではないか、と指摘されています。これは、人類・チンパンジー・ゴリラの系統がアフリカで進化したという見解の証拠になる、と言えそうです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:中新世アフリカの新たな幼体頭蓋から得られた類人猿進化の手掛かり

進化学:類人猿の祖先の進化

 中新世(2300万~530万年前)の地球は「猿の惑星」であり、30以上の属の、40以上の種の類人猿が存在していた。しかし、完全な頭蓋の証拠から得られた知見は極めて少なく、顔および口蓋以外の頭蓋要素から知られている種はわずかであり、ヒト族および現生類人猿の直接的な近縁種の頭蓋の状態に関する情報は限られている。こうした情報の欠如はアフリカで特に顕著で、1400万~1000万年前の頭蓋標本は1つも知られていない。I Nengoたちは今回、ケニアで出土した類人猿の幼体の頭蓋について報告している。この標本は1300万年前のもので、ニャンザピテクス属(Nyanzapithecus)の新種とされた。今回の証拠からは、この類人猿にはテナガザル類との類似点が若干認められるが、こうした類似性は収斂によるものである可能性が高いこと、また、この新種が現生類人猿の共通祖先の近縁種であることが示された。



参考文献:
Nengo I. et al.(2017): New infant cranium from the African Miocene sheds light on ape evolution. Nature, 548, 7666, 169–174.
http://dx.doi.org/10.1038/nature23456


追記(2017年8月15日)
 本論文の要約が『ネイチャー』の日本語サイトに掲載されたので引用します。



【進化】類人猿の進化の謎に解明の光を当てる古代の頭蓋骨

 ケニアで1300万年前の類人猿の乳仔の頭蓋骨が発見され、類人猿の進化を洞察するための新たな手掛かりが得られたことを報告する論文が、今週掲載される。この化石標本は、ヒト上科(テナガザル、類人猿、ヒトを含む)の姉妹群であるNyanzapithecusの新種とされ、テナガザルにある程度似ているが、現生類人猿の共通祖先の近縁種であった可能性が非常に高いと論文著者は考えている。

 ヒト上科は、中新世(およそ2300~500万年前)に広範に多様化し、40以上の種によって構成されるようになったが、頭蓋化石によって同定されているのは全体のわずか3分の1にすぎない。特にアフリカのヒト上科の化石記録には、1700~700万年前のかなり完全な頭蓋化石が存在せず、1400~1000万年前の頭蓋化石標本は1つも発見されていない。

 今回、Isaiah Nengo、Fred Spoorたちの研究グループは、1300万年前と年代決定された類人猿の乳仔のほぼ完全な頭蓋骨について記述した論文を発表した。この新種Nyanzapithecus alesiは、頭蓋全体の形態と歯の成長のいろいろな側面でテナガザル科の数種と類似しているが、これらの特徴はそれぞれ独立に進化していた。これに対して、Nengoたちは、N. alesiの内耳の半規管が比較的小さいため、明らかに別種であることを指摘している。半規管は、運動の知覚にとって重要な特徴だ。また、Nengoたちは、N. alesiの移動運動には現生テナガザル種の曲芸的なぶら下がり運動ほどの素早さと機敏さがなかったと推定している。

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