アフリカにおける現生人類と未知の人類との交雑

 これは7月24日分の記事として掲載しておきます。アフリカにおける現生人類(Homo sapiens)と未知の人類との交雑の可能性を指摘した研究(Xu et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究は、人間の唾液豊富に含まれるタンパク質の一つであるムチン7をコードしている、繰り返し配列のコピー数の違い(5しくは6)が見られるMUC7遺伝子の変異を調べました。MUC7遺伝子は、以前には喘息への抵抗性との関連が指摘されていましたが、この研究ではそれが認められず、口腔細菌叢との関連が示されています。

 5コピー数のMUC7遺伝子のハプログループEとGのうち、Gは(サハラ砂漠以南の)アフリカに限らず世界全域で広くみられるのにたいして、Eはおもにアフリカ系でのみ見られます。注目されるのは、Gが現代人の6コピー数の他のハプログループ(ABCDFH)およびネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)・種区分未定のデニソワ人(Denisovan)のハプログループと一つの分類群を、ハプログループEがもう一方の分類群を構成していることです。ハプログループEは、現代人およびネアンデルタール人・デニソワ人に見られる他のハプログループと、数百万年以上前という早期に分岐したことになりそうです。

 そのためこの研究は、ハプログループEは遺伝学的に未知の人類系統からアフリカ系現代人の祖先にもたらされたのではないか、と推測しています。もちろん、未知とはいってもあくまでも遺伝学的にということで、既知の化石の中にこの未知の人類系統に分類され得るものがあるかもしれません。この研究は、ハプログループEを有する未知の人類系統と現代人・ネアンデルタール人・デニソワ人の共通祖先系統との分岐年代が200万~150万年前頃、未知の人類系統と現生人類との交雑が15万年前頃と推定しています。

 出アフリカ後の現生人類とネアンデルタール人・デニソワ人との交雑はすでに広く認められていますが、アフリカにおいても、現生人類と遺伝学的に未知の人類系統との交雑の可能性が指摘されています(関連記事)。現生人類とは形態的に大きく異なるホモ属とされるナレディ(Homo naledi)が遅くとも335000~236000年前頃まで(関連記事)生存していただろうことからも、アフリカにおいて現生人類とは大きく異なる人類系統が15万年前頃まで生存していたとしても、不思議ではありません。人類の進化は複雑であり、各系統の交雑が少なからぬ頻度で生じていたのかもしれません。


参考文献:
Xu D. et al.(2017): Archaic hominin introgression in Africa contributes to functional salivary MUC7 genetic variation. Molecular Biology and Evolution, 34, 10, 2704-2715.
https://doi.org/10.1093/molbev/msx206

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