三谷太一郎『日本の近代とは何であったか 問題史的考察』

 これは7月23日分の記事として掲載しておきます。岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店より2017年3月に刊行されました。本書はおもに政治・経済的観点からの日本近代史総論となっています。具体的には、政党政治の成立・資本主義の形成・植民地帝国の形成・天皇制の確立という観点から日本近代史が考察されています。あるいは、個々の具体的な解説に関して、専門家からの異論があるのかもしれませんが、大家の著書らしく、たいへん奥深い内容になっており、日本近代史についてさまざまな観点から考えさせられる契機になると思います。今後、時間を作って何度か再読したいものです。

 本書の特徴は、近代における日本社会の大きな変容を認めつつも、とくに政治体制・思想において、江戸時代との連続性にも注意を喚起していることです。近代日本における権力分立傾向や議会制下の政党政治発展の前提として、幕末の政治状況やさらにさかのぼっての19世紀半ば以前の日本社会における政治文化が指摘されています。また、本書の主要な対象は第二次世界大戦までなのですが、第二次世界大戦後、さらには現代の国際関係も含む政治状況を強く意識し、簡潔に取り上げているとともに、今後の見通しも提示していることも、本書の特徴です。

 本書は奥深い内容となっているだけに、色々と教えられるところが多かったのですが、資本主義の形成についての解説と、天皇制をめぐる問題、とくに教育勅語をめぐる近代日本社会の葛藤は、読みごたえがありました。近代日本政府が、植民地化への危機感から当初は外債に依存しない自立的資本主義化を目指し、日清戦争などを経て国際的地位が向上してからは、国際的資本主義へと転換して、井上準之助の金解禁政策も、そうした状況において、国際的資本主義エリートの一員として井上が認められていたことが背景にあったことは、なかなか興味深い解説でした。教育勅語につていても、信教の自由・立憲君主制と近代日本社会の骨格として欧米列強のキリスト教に相当するものが必要との判断の間で、当時の支配層の間に葛藤・緊張関係のあったことが、よく伝わってきました。

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