地上生活の始まりと体温調節

 これは7月22日分の記事として掲載しておきます。人類の地上生活の始まりの要因に関する研究(Takemoto., 2017)が報道されました。解説記事もあります。この研究は、チンパンジーとボノボの観察を通して、森林内気温変化とその季節変化が、地上で過ごす時間を増やす要因であるこ、と明らかにしました。チンパンジーとボノボは、気温の低い雨季にはほとんど樹上で生活しているのにたいして、暑い乾季には地上で過ごす時間が大きく増える、というわけです。とくに雨期と乾期がはっきりしているギニアのチンパンジーは、地上で過ごす時間が雨期は13.5%にたいして、乾期は50.1%と4倍近くに増えました。地上は樹上に比べて気温が5~7度低く、エネルギーを節約するため体温調節をしているのではないか、と推測されています。

 初期人類の化石は、2300万~1800万年前頃には広くアフリカ大陸を覆っていた熱帯林の周辺部で発見されています。後期中新世となる900万~800万年前頃以降、アフリカ熱帯林の周辺部で乾燥化が始まって乾季が目立つようになり、森林面積が断続的に減少していった、と明らかになっています。一年中温暖で湿潤な熱帯雨林の樹上で生活していた人類の祖先は、乾季の出現と長期化により、森林内での地上生活が促進されたのではないか、というわけです。また、森林が後退し、樹が点在する開けた環境に人類が適応できたのは、森林内ですでに季節的な地上生活を経験していたからではないか、と推測されています。

 直立二足歩行は人類の最も重要な定義と言えるでしょうから、その起源については大きな関心が寄せられてきました。直立二足歩行の起源は、サバンナへの進出・地上生活の開始と関連づけられてきましたが、近年では、直立二足歩行は樹上で始まったとされており(関連記事)、初期人類のラミダス(Ardipithecus ramidus)も主要な生息環境は森林と考えられています(関連記事)。この研究は、地上生活の始まりにはサバンナも直立二足歩行も必要なく、直立二足歩行の起源と地上生活の始まりを切り離してもよいのではないか、と提言しています。この研究は、森林の中での直立二足歩行の機能・利点を追求する新たな契機になるのではないか、というわけです。


参考文献:
Takemoto H.(2017): Acquisition of terrestrial life by human ancestors influenced by forest microclimate. Scientific Reports, 7, 5741.
http://dx.doi.org/10.1038/s41598-017-05942-5

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