現代のイヌの地理的起源

 これは7月20日分の記事として掲載しておきます。現代のイヌの地理的起源に関する研究(Botigué et al., 2017)が公表されました。イヌの起源に関しては多くの見解が提示されており、最近の研究動向をほとんど追えていないのですが、昨年(2016年)、イヌはユーラシアの東西で農耕開始前に独立して家畜化され、後に東アジアから西ユーラシアへとイヌが人々に連れられて移動し、ヨーロッパでは東アジア系のイヌによる旧石器時代以来の在来イヌの大規模な置換が起きたのではないか、と推測する研究が公表されています(関連記事)。

 この研究は、古代のイヌと現代のイヌとの遺伝的類縁関係を解明するため、ドイツの遺跡で発見された新石器時代となる7000年前頃と4700年前頃の2匹のイヌの骨化石と、すでに研究報告のあるアイルランドの4800年前頃のイヌの骨化石から得られた全ゲノム塩基配列を解析しました。その結果、古代のイヌと現代の主要なヨーロッパ系のイヌの遺伝的根源が共通しており、家畜化されたイヌについて、新石器時代前期から現代までの約7000年間にわたる遺伝的連続性が認められる、と明らかになりました。

 またこの研究では、イヌ科の進化の歴史の節目となった時期について、オオカミとイヌの分岐が4万年前頃、東洋犬と西洋犬の分岐が2万年前頃と推定されています。そのためこの研究では、イヌの家畜化の地理的起源は単一で、4万~2万年前頃のことだった、との見解が提示されています。これは、イヌの家畜化がユーラシアの東西でそれぞれ独自に起きたことを示唆する上述した見解とは対照的で、今後の研究の進展が期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【遺伝】現代のイヌの単一の地理的起源

 古代ヨーロッパに生息していたイヌのゲノムと現代のイヌのゲノムの類似性が明らかになり、現代のイヌの地理的起源が1か所に絞り込まれることが示唆されている。この研究結果を報告する論文が、今週掲載される。

 今回、Krishna Veeramahたちの研究グループは、古代のイヌと現代のイヌとの遺伝的類縁関係を解明するため、ドイツの遺跡で発見された2匹の新石器時代のイヌ(それぞれ約7,000年前、約4,700年前のもの)の骨化石と第3の既に研究報告のあるアイルランドのイヌ(約4,800年前のもの)の骨化石から得た全ゲノム塩基配列の解析を行った。その結果、古代のイヌと現代の主要なヨーロッパ系のイヌの遺伝的根源が共通しており、家畜化されたイヌについて、新石器時代前期から現代までの約7,000年間にわたる遺伝的連続性が認められることが明らかになった。今回の研究では、イヌ科の進化の歴史の節目となった時期の推定も行われ、オオカミとイヌの分岐が約40,000年前、東洋犬と西洋犬が分岐したのが約20,000年前と推定された。

 Veeramahたちは、これらのデータに基づいて、イヌの家畜化は、地理的起源が単一で、20,000~40,000年前に行われたとする学説を提唱している。この学説は、イヌの家畜化が東ユーラシアと西ユーラシアでそれぞれ独自に行われたことを示唆した過去の研究報告と対照的な内容になっている。



参考文献:
Botigué LR. et al.(2017): Ancient European dog genomes reveal continuity since the Early Neolithic. Nature Communications, 8, 16082.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms16082

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック