攻撃者から被害者を守る第三者の介入を肯定する乳児

 これは6月7日分の記事として掲載しておきます。ヒトに見られる、有害な相互作用に対する第三者による保護的介入が始まる時期についての研究(Kanakogi et al., 2017)が公表されました。有害な相互作用に対する第三者による保護的介入は、一般には称賛される行為であり、道徳・正義・英雄的資質といった概念と結びつけられています。じっさい、そうした第三者の介入が絡む物語は、神話・書物・映画などの形で、有史以来の大衆文化のなかに数多く見られます。現代の発達科学では、ヒトはこうした介入を就学前から行なうようになるとされています。たとえば3歳児は、虐めから被害者を守ろうとして有害な相互作用に介入し、さらには悪さをする者を罰するだけでなく、被害者を助けることを優先する場合もあります。しかし、他者によるそのような介入を、ヒトがどの時点で肯定し始めるかは不明でした。

 この研究は、その発達の起源が生後6~10ケ月の乳児(調査対象は132人)にある、と報告しています。攻撃的な相互作用に第三者が介入する筋書きの動画と介入しない筋書きの動画を見せられた後、6ヶ月児は前者の第三者を好みました。さらなる実験では、そうした選択の基盤となる心理的過程が確認されました。6ヶ月児は、介入者を攻撃者から被害者を守る存在だと見なしましたが、介入者の意図を考慮した後にそうした介入を肯定したのは、より年長の乳児だけでした。この知見は、第三者による保護的な介入を知覚・理解し、遂行する発達軌跡に光明を投じるもので、あらゆる文化の数多くの物語に遍在するそうした行為をヒトが称賛し、重視することの起源が、前言語期の乳児の心にまでたどれることを示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


前言語期の乳児は攻撃者から被害者を守る第三者の介入を肯定する

 有害な相互作用に対する第三者による保護的介入は一般に称賛される行為であり、道徳、正義、英雄的資質といった概念と結びつけられている。実際、そうした第三者の介入が絡むストーリーは、神話、書物、映画の形で、有史以来の大衆文化のなかに数多くみることができる。今日の発達科学では、ヒトはこうした介入を就学前から行うようになるとされている。例えば3歳児は、いじめから被害者を守ろうとして有害な相互作用に介入し、さらには悪さをする者を罰するだけでなく、被害者を助けることを優先することもある。しかしながら、他者によるそのような介入を、ヒトがどの時点で肯定し始めるかはわかっていない。本論文では、その発達の起源が生後6~10ケ月の乳児(N=132)にあることを報告する(N = 132)。攻撃的な相互作用に第三者が介入する筋書きの動画と介入しない筋書きの動画を見せられた後、6ケ月児は前者の第三者を好んだ。さらなる実験では、そうした選択の基盤となる心理的過程が確認された。6ケ月児は、介入者を攻撃者から被害者を守る存在であると見なしたが、介入者の意図を考慮した後にそうした介入を肯定したのは、より年長の乳児だけであった。今回の知見は、第三者による保護的な介入を知覚し、理解し、遂行する発達軌跡に光明を投じるものであり、あらゆる文化の数多くのストーリーに遍在する、そうした行為をした行為をヒトが称賛し、重視することの源が、前言語期の乳児の心にまで辿れることを示唆している。



参考文献:
Kanakogi Y. et al.(2017): Preverbal infants affirm third-party interventions that protect victims from aggressors. Nature Human Behaviour, 1, 0037.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-016-0037

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