鈴木紀之『すごい進化 「一見すると不合理」の謎を解く』

 これは6月4日分の記事として掲載しておきます。中公新書の一冊として、中央公論新社から2017年5月に刊行されました。本書は、一見すると「不合理」な進化を適応主義的な観点から検証していきます。擬態が不完全だったり、「求愛エラー(繁殖能力のある子孫を残せない近縁種との生殖行動)」を起こしたりするのは、遺伝子など何らかの制約に起因する、といった制約を重視する説にたいして、本書はあくまでも、一見すると「不合理」な進化のなかに、適応主義的な理由があるのではないか、と追及していきます。

 本書はおもに昆虫を対象として、さまざまな一見すると「不合理」な進化の要因を検証していきます。本書は一般向けであることを強く意識してか、理論的な解説もあるものの、多くの具体的な事例を提示しています。本書は、進化をどう把握するのかという、思想的な問題を提起していますが、具体的な事例が豊富で面白いので、単純に雑学本として気楽に読み進めることもできるでしょう。ただ、本書は進化の奥深さ・面白さについて説明するのにも成功していると言えるでしょうから、単に雑学本として読んでしまうのはもったいないようにも思います。

 もちろん、本書でも認められているように、本書の内容は、あくまでも著者が現時点で最も説得力のあると考えている見解にすぎないわけで、今後の研究の進展により大きく見直されたり否定されたりすることもあり得ますから、鵜呑みは禁物です。それでも、一見すると不可解な進化について、単純な説明で終わらせるのではなく、さまざまな理由を検証しなければいけない、という本書の基本的な姿勢は今後も有効であり続けるでしょう。

 食資源を特定の植物に依存する昆虫と植物との関係を共進化で把握する説にたいして、近縁他種との競合も大きな要因になり得ると説明し、じっさい競合相手となる近縁他種のいない地域では他の植物も食資源として利用している例の紹介や、「求愛エラー」を制約としてよりも、近縁他種がいる場合における繁殖の範囲を狭めないための合理的な戦略だと把握する見解など、本書は魅力的な見解に満ちていると思います。他種との交雑に関しては、現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)との事例も取り上げられています。



参考文献:
鈴木紀之(2017)『すごい進化 「見すると不合理」の謎を解く』(中央公論新社)

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