湧水と人類の進化

 これは6月1日分の記事として掲載しておきます。湧水と人類の進化に関する研究(Cuthbert et al., 2017)が報道されました。水は人類にとってきわめて重要な資源です。気候変動が人類の進化において重要な役割を果たした、との見解は一般的でしょうが、そのさいに注目されている生態系の変化を規定する根本的要因の一つが水(利用可能水量)です。しかし、これまで、湧水のような地下水の利用可能量については、あまり注目されてきませんでした。この研究は、アフリカ東部における湧水の分布を同定し、気候変動による湧水の分布の変化をモデル化して、人類の進化・拡散と関連づけています。

 この研究が湧水に着目したのは、乾燥した期間における利用可能な淡水は、気候変動だけでは明らかにならないからです。アフリカ東部の乾燥した期間では、地表水、たとえば湖の水はしばしばアルカリ性で塩分濃度が高くなり、人間の飲料としては適しません。そのため、湧水は人類の生存にとって重要であり、人類の進化・拡散を規定する要因の一つになるとともに、気候変動の緩衝として作用したのではないか、というわけです。

 この研究は湧水の分布の変化をモデル化し、過去において人類集団が湧水の分布に制約され、長期にわたって孤立した場合もある可能性を指摘しています。これが、人類の多様性の欠如と、それぞれ孤立して進化した系統同士の交雑を説明できるかもしれない、とこの研究は展望しています。他地域においても、人類の進化に湧水が重要な役割を果たしたことは珍しくなかったのかもしれず、今後の研究の進展が期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【進化】ヒト族の進化に影響を与えた湧水の存在

 東アフリカ地溝帯系におけるヒト族の進化と分散のパターンが地下水の利用可能量によって制御されていたという結論を示した論文が、今週掲載される。今回の研究では、地下水が、天然湧水の形で淡水を供給することを通じて、この地域における非人為的な気候変化の緩衝として作用したことが明らかになった。

 東アフリカ地溝帯系は、活動的な大陸地溝帯の1つで、ヒト(Homo sapiens)の進化にとって重要な場所であるアフリカでは、現在、大陸を引き裂こうとする力が加わっている。この地域でのヒト族の進化と分散は、気候変化のみに依存するとこれまで考えられていた。しかし、非常に乾燥した気候だった時代にどの淡水源が利用可能だったのかについて解明が進んでいないため、その時にヒト族が生き残り、分散した過程と場所が明らかになっていない。

 今回、Mark Cuthbertたちの研究グループは、東アフリカ地溝帯系の現在の地形のマップを作成して、450か所以上の現存する湧水を同定し、地下水の分布が気候によって変化する過程をモデル化した。そしてCuthbertたちは、これらのデータとモデルをヒト族の移動のモデルと組み合わせた。その結果、乾燥期においては、地表水が少ない孤立した居住地の存続にとって地下水の利用可能量が非常に重要なことが判明した。そのため、東アフリカ地溝帯系におけるヒト族集団の分散と生存の予想外の変動が、地下水源のために起こりやすくなった可能性がある。



参考文献:
Cuthbert MO. et al.(2017): Modelling the role of groundwater hydro-refugia in East African hominin evolution and dispersal. Nature Communications, 8, 15696.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms15696

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