アフリカ南部の岩絵の年代

 これは5月5日分の記事として掲載しておきます。アフリカ南部の岩絵の年代に関する研究(Bonneau et al., 2017)が報道(Wild., 2017)されました。この研究で調査対象となったのは、アフリカ南部における初期狩猟採集民の直系子孫とされるサン人の所産と考えられている、南アフリカ共和国・ボツワナ共和国・レソト王国の後期石器時代のものと思われる岩絵です。岩絵は民族誌としても利用でき、農耕集団や牧畜集団との交流の様子が窺えると指摘されていますが、他の人工物が共伴していないので、正確な年代は不明でした。また、アフリカ南部の岩絵の黒色の顔料はマンガンに由来すると推測されていたので、放射性炭素年代測定の適用は難しい、と考えられていました。

 この研究は、これらアフリカ南部の岩絵を分析し、獣脂を燃やすなどして作ったと思われる黒色の顔料が使用されていることを明らかにし、放射性炭素年代測定法を適用しました。ただ、岩絵には描かれた後の汚染の問題もあり、正確な結果を得るのが難しくなっています。これらアフリカ南部の岩絵では、シュウ酸カルシウムなどの表面の堆積物が除去され、放射性炭素年代測定法が適用されました。ただ、完全にシュウ酸カルシウムを除去できたと明示できていない、と疑問を呈する研究者もおり、有望な方法ではあるものの、有機汚染物質の多い古い年代の場所には適していない方法だ、とも指摘されています。

 そうした問題もありますが、この研究は放射性炭素年代測定法を用いて、アフリカ南部の複数の岩絵の較正年代を提示しています。ボツワナ共和国では、南東部に位置する、40ヶ所の遺跡のあるテューネダム(Thune Dam)が調査の対象となりました。テューネダム遺跡群では、後期石器時代と思われる岩絵が確認されており、キリンや魚やヒツジが描かれているのが地域的特徴となっています。レソト王国西部ではプティアツァナ川渓谷(Phuthiatsana River Valley)の259ヶ所(その他の地域も含めると493ヶ所)で岩絵が確認されています。この研究では、メトロングダム(Metolong Dam)地域の岩絵が年代測定されています。南アフリカ共和国では南東部のマクレア地区(Maclear District)の岩絵が年代測定されています。

 各岩絵の放射性炭素年代測定の結果はさまざまですが、信頼できそうな古い較正年代は、ボツワナ共和国南東部で5723~4420年前、レソト王国西部では2326~965年前、南アフリカ共和国南東部では2998~2381年前となります。ボツワナ共和国南東部の岩絵の年代は、直接的に測定された確実なものとしては、現時点ではアフリカ南部で最古となります。また、岩絵は長期にわたって描かれているので、社会変化の反映という観点からの研究の進展も期待されています。


参考文献:
Bonneau A. et al.(2017): The earliest directly dated rock paintings from southern Africa: new AMS radiocarbon dates. Antiquity, 91, 356, 322–323.
https://doi.org/10.15184/aqy.2016.271

Wild S.(2017): Dreams of the Stone Age dated for first time in southern Africa. Nature, 545, 7652, 14–15.
http://dx.doi.org/10.1038/545014a

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