アシューリアン石器製作の基礎となる脳機能

 これは5月10日分の記事として掲載しておきます。アシューリアン(Acheulian)石器製作の基礎となる脳機能に関する研究(Putt et al., 2017)が報道されました。伝統的な石器製作技術の区分(関連記事)では、小さな礫から2~3片の剥片をはがす簡単な石器製作技術であるオルドワン(Oldowan)に代表される様式1(Mode 1)から、様式1より周到な計画と調整が必要とされる両面加工握斧(Handaxe)などを製作する様式2(Mode 2)への変化は、画期の一つとされています。現時点では、最古のアシューリアン石器は176万年前頃とされています(関連記事)。アシューリアンの出現は、人類の認知・言語能力における進化を反映している、と考えられています。

 この研究は、オルドワン石器とアシューリアン石器の製作における基礎となる脳機能の違いについて、機能的近赤外線分光法を用いて検証しています。もちろん、絶滅人類の脳機能を観察するのは不可能なので、現代人31名が観察対象となりました。この実験では、石器製作と言語との関連を検証するために、石器製作の学習にさいして同じ映像を用いつつも、15人は音声有、16人は音声無と分けられました。オルドワン石器の製作では、視覚的注意力と動作制御ネットワークの共同作用で充分である、と明らかになりました。

 しかし、アシューリアン石器の製作においては、視覚的なワーキングメモリ・聴覚および感覚的情報・複雑な行動計画の統合が要求され、これは現代のピアノ演奏で活性化する脳領域と同様でした。また、参加者が音声有の映像でアシューリアン石器の製作を学習している時のみ、言語に特化した脳のネットワークが活性化することも明らかになりました。この実験で得られた知見は、革新的とされているアシューリアン石器製作の始まりが脳の言語野の進化に大きく依存していなかったことを示唆しているのではないか、と指摘されています。これは人類の認知能力の進化を解明するうえで注目すべき成果と言えそうで、今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Putt SS. et al.(2017): The functional brain networks that underlie Early Stone Age tool manufacture. Nature Human Behaviour, 1, 0102.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0102

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