Jonathan Marks『元サルの物語 科学は人類の進化をいかに考えてきたのか』

 これは4月9日分の記事として掲載しておきます。ジョナサン=マークス(Jonathan Marks)著、長野敬・長野郁訳で、2016年11月に青土社より刊行されました。原書の刊行は2015年です。本書は一般向けながら、たいへん深い内容になっていると思います。だからといって、難解とか、晦渋さを誇示しているとかいうわけではなく、文章自体は比較的平易だと思います(正確には、翻訳文がそうだと言うべきなのでしょうが、おそらく原文も同様なのでしょう)。

 本書はアメリカ合衆国の一般読者を対象としているようで、ところどころでアメリカの生活文化に詳しくないとよく理解できないような表現もありますが、それらは訳注で解説されています。また、学術的な解説となる訳注もありますから、原註と索引があることもあわせて、かなり行き届いた構成になっていると思います。分量からするとやや高め(税別2600円)と言えるかもしれませんが、それだけの価値はじゅうぶんあると思います。

 ただ、率直に言って、本書はたいへん奥深い内容になっており、私の見識・読解力ではどれだけ的確に把握できたのか、はなはだ心もとなく、今後何回も精読しないといけないな、と痛感しました。自分が、いかに表面的なことしか追えていなかったのか、思い知らされました。自分の未熟さを思い知らされたという意味で、近年読んだ本では最も衝撃でした。今後も、さまざまな情報を自分なりに咀嚼していこうとは考えていますが、そうした情報が文化的産物であることは、強く念頭に置いておかねばなりません。

 近親相姦や食人の禁忌や家族の起源など、本書の解説を手がかりに、今後も考えていきたい問題は多数あります。本書は豊富な水脈を抱えており、本書の「具体的な情報」自体は今後「古くなる」としても、本書は私にとって今後長く繰り返し読むだけの価値のある一冊になるだろう、と確信しています。一般向け書籍ということで、門外漢も興味の持ちそうな具体的事例を提示する工夫も見られ、なかでも、パイオニア10号に取り付けられた飾り板の情報が、いかに特定の文化の文脈に制約されていたのか、という解説は印象に残りました。だ


参考文献:
Marks J.著(2016)、長野敬・長野郁訳『元サルの物語 科学は人類の進化をいかに考えてきたのか』(青土社、原書の刊行は2015年)

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