アメリカ大陸における13万年前頃の人類の痕跡?

 これは4月28日分の記事として掲載しておきます。アメリカ大陸における人類の痕跡が大きくさかのぼるかもしれないことを報告した研究(Holen et al., 2017)が報道されました。『ネイチャー』のサイト には解説記事が掲載されています。この研究が取り上げたのは、アメリカ合衆国カリフォルニア州南部のサンディエゴ市近郊のセルティマストドン(Cerutti Mastodon)遺跡です。セルティマストドン遺跡では、単一のマストドン(Mammut americanum)の断片的な遺骸が発見されています。

 このマストドンは螺旋骨折しており、死後間もなく打撃を受けたことが示唆されています。骨や歯の分布から、このマストドンは発見された場所で破損した、と考えられています。このマストドンの打撃の痕跡と、使用による摩耗と衝撃の痕跡を示す5個の巨大な丸石(叩き石と台石)がマストドンの側にあり、マストドンの遺骸を囲む沈泥層から受ける破損の影響が小さいだろうことから、このマストドンの破損は、手先が器用で経験的知識のある人間が、マストドンの肢骨を骨髄抽出および(もしくは)道具生産のために破損させたのではないか、とこの研究は推測しています。このマストドンの破損パターンは、アフリカ・ユーラシア・北アメリカの旧石器時代の人為的パターン内に収まる、とも指摘されています。また、明確な解体痕(cut marks)がなかったことから、マストドンは殺されなかったか、肉が目的で解体されなかったことが示唆されています。

 議論を呼びそうなのは、このマストドンの年代が、光刺激ルミネッセンス年代測定法では6万~7万年前以上、ウラン-トリウム法では130700±9400年前と推定されていることです。これは、広く認められているアメリカ大陸への人類の移住年代を10万年以上さかのぼります。この研究の見解が妥当なのだとしたら、難問が生じます。セルティマストドン遺跡の担い手はどの系統の人類なのか、ということと、これが孤立した早期の失敗した移住なのか、それともアメリカ大陸におけるまだ確認されていない長期の居住の一部を反映しているのか、ということです。

 かりに、この研究の見解が妥当だとしても、現時点ではあまりにも異例で孤立した事例なので、失敗した早期の移住と考えるのがよさそうです。セルティマストドン遺跡の担い手について、本論文の研究者たちは、中華人民共和国湖南省永州市(Yongzhou)道県(Daoxian)の福岩洞窟(Fuyan Cave)で発見された、人類も想定しています(関連記事)。この人類は、報告者たちにより現生人類に分類されています。現生人類アフリカ単一起源説の代表的論者であるストリンガー(Chris Stringer)氏は、種区分未定のデニソワ人(Denisovan)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)を想定しています。アメリカ大陸に存在した人類は現生人類のみという常識を揺さぶることになるかもしれず、何とも衝撃的な発見でしたが、人骨や石器が見つかっていないことから、直ちに広く認められることはなさそうで、今後の研究の進展が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


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 約13万年前、1頭のマストドンが現在の米国カリフォルニア州サンディエゴ付近で死んだ。これ自体は問題がなさそうだが、T Deméréたちは今回、その死骸に人類が手を加えたことを裏付ける証拠を示している。叩き石と台石が、打ち付けにより破壊された痕跡が認められるマストドンの骨および歯のそばで発見されたのである。これらはおそらく、骨髄を取り出すための行為の証拠だと考えられる。これらの骨には放射性炭素年代測定に使えるコラーゲンがほとんど残っていないため、遺跡の年代決定は容易でなく、光刺激ルミネッセンス年代測定法では6万~7万年以上前と示された。環境と骨の間のウランの移動によって絞り込められるウラン崩壊に基づく年代測定の結果からは、約13万年前という年代がはじき出された。さらなる裏付けが得られれば、人類が南北アメリカに存在したことが知られている時代が10倍延長され、現生人類が初めてアフリカを出たと考えられている年代に先行することになる。一方で、存在していた可能性のあるこのヒト族種が何者であったのかは、まだ分からない。



参考文献:
Holen SR. et al.(2017): A 130,000-year-old archaeological site in southern California, USA. Nature, 544, 7651, 479–483.
http://dx.doi.org/10.1038/nature22065

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