フロレシエンシスの祖先はエレクトスではない

 これは4月24日分の記事として掲載しておきます。インドネシア領フローレス島で発見された5万年以上前の更新世人類の起源に関する研究(Argue et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この人類の分類については発見当初、ホモ属の新種フロレシエンシス(Homo floresiensis)なのか、それとも病変の現生人類(Homo sapiens)なのか、激論が展開されました。今でも病変現生人類説は一部で根強く主張されていますが、この研究でも病変現生人類説は明確に否定されており、新種説の優位は今後も動かないと思われます。では、フローレス島の5万年以上前の更新世人類をホモ属の新種フロレシエンシスと分類するとして、次に問題となるのは、フロレシエンシスを人類進化史においてどう位置づけるのか、ということです。

 この問題に関しては議論がまだ続いており、当分収束しそうにありません。この議論については、大別すると二つの見解が提示されています。一方の見解は当初提示されたもので、フロレシエンシスは東南アジアにまで進出していたホモ属であるエレクトス(Homo erectus)の子孫であり、島嶼化により小型化した、というものです。もう一方の見解は、研究の進展によりフロレシエンシスの祖先的特徴の確認例が増加してきたことから、フロレシエンシスはエレクトスよりもさらに祖先的な系統、たとえばハビリス(Homo habilis)から進化したのではないか、というものです。もっとも、後者の見解でも島嶼化による小型化が否定されているわけではありません。フロレシエンシスに関しては、昨年(2016年)大きな進展がありました(関連記事)。

 フロレシエンシスに関してこの研究は、おもに頭蓋と下顎を対象としたじゅうらいの研究にたいして、頭蓋・顎・歯・腕・脚・肩と広範に対象としており、これはフロレシエンシス遺骸の最も包括的な分析になる、と評価されています。この研究は、フロレシエンシスのそうした特徴を他のホモ属やアウストラロピテクス属と比較し、顎の構造のような多くの特徴において、フロレシエンシスはエレクトスよりもっと祖先的であることから、エレクトスがフロレシエンシスの祖先系統である可能性はほぼない、との見解を提示しています。その代わりにこの研究は、フロレシエンシスはハビリスのみの姉妹群か、ハビリスやエレクトスやエルガスター(Homo ergaster)や現生人類を構成する系統群の姉妹群である、との見解を提示しています。

 この研究は新たな分析に基づき、フロレシエンシスは175万年以上前に(後に現生人類が派生する)エレクトスの系統と分岐し、まだ知られていない出アフリカにより東南アジアにまで到達した、と示唆しています。この場合、アフリカでフロレシエンシスに進化してからフローレス島に到達したか、出アフリカの後、どこかでフロレシエンシスに進化したのではないか、と想定されています。この研究は、フロレシエンシスの祖先がエレクトスではないことに確信を有しているようですが、エレクトス説の研究者側からの反論に期待したいところです。まあ、私がまだエレクトス説に未練があるからなのですが・・・。


参考文献:
Argue D. et al.(2017): The affinities of Homo floresiensis based on phylogenetic analyses of cranial, dental, and postcranial characters. Journal of Human Evolution, 107, 107–133.
http://doi.org/10.1016/j.jhevol.2017.02.006

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