40万年前頃のポルトガルの人類頭蓋
これは3月16日分の記事として掲載しておきます。40万年前頃のポルトガルの人類頭蓋に関する研究(Daura et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究が分析したのは、ポルトガルのアロエイラ洞窟(Gruta da Aroeira)で発見された中期更新世のホモ属頭蓋(アロエイラ3)です。アロエイラ洞窟の中期更新世の層では、人類化石とともに、豊富な(人類ではない)動物化石や、石器群が発見されています。この石器群はアシューリアン(Acheulian)で、握斧(Handaxe)も含まれています。動物の骨のなかには焼けたものもあり、制御された火の使用の可能性が指摘されています。
中期更新世のホモ属頭蓋アロエイラ3においては、後頭部骨が失われているものの、頭蓋冠の右半分のほとんどと、鼻腔底の一部および2個の断片的な臼歯のある断片的な右上顎が残っています。臼歯には摩耗が見られます。アロエイラ3の性別・死因は不明です。アロエイラ3の年代は、堆積物のウラン系列法から436000~390000年前頃と推定されています。アシューリアン石器群と共伴するような中期更新世のホモ属の人骨で年代の確実なものは少ないことから、アロエイラ3は中期更新世のヨーロッパにおける人類進化の研究に大きく貢献する、とその意義が指摘されています。ヨーロッパにおけるアシューリアンの出現に関しては、90万年前頃までさかのぼる可能性が指摘されています(関連記事)。
この研究は、アロエイラ3の特徴を分析するとともに、ヨーロッパの他の中期更新世のホモ属頭蓋と比較しています。たとえば、アシューリアン石器群と関連した、スペイン北部の「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)や、イギリス南東部のスウォンズクーム(Swanscombe)遺跡です。これらの遺跡の年代は、海洋酸素同位体ステージ(MIS)11~12となる50万~40万年前頃です。こうしたヨーロッパの中期更新世のホモ属については、エレクトス(Homo erectus)の亜種やハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)や初期ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)などと区分されており、それぞれのホモ属化石の分類が確定しているわけではありません。
この研究は、ヨーロッパの中期更新世のホモ属頭蓋を3区分しています。分類Aはほぼ完全なネアンデルタール人で、おもに20万年前頃以降の化石です。分類Bは、眼窩上隆起や側頭骨や下顎でネアンデルタール人の特徴が見られるものの、神経頭蓋はネアンデルタール人的ではなく、モザイク状の進化を示します。SH頭蓋はBに分類されます。分類Cはイタリアのチェプラーノ(Ceprano)遺跡などのホモ属頭蓋で、残存領域にネアンデルタール人の特徴が見られないか、曖昧です。
アロエイラ3は、ドイツのビルツィングスレーベン(Bilzingsleben)遺跡のホモ属頭蓋と類似した連続して厚い眼窩上隆起や、ドイツのシュタインハイム(Steinheim)頭蓋のような短い乳様突起が見られ、アロエイラ3頭蓋はCに分類される頭蓋によく似ている、とこの研究は評価しています。この研究は、アロエイラ3頭蓋とSH頭蓋など、地理的・年代的には近接しているものの、形態は明確に異なる頭蓋が見られることから、中期更新世のヨーロッパにおいては、人類集団間または集団内の多様性と複雑な人口動態が見られると指摘し、さまざまな水準の孤立と交雑を伴う多様な集団置換を想定しています。
またこの研究は、中期更新世のヨーロッパにおいて、ともにアロエイラ遺跡で確認されている、アシューリアン石器群の拡大と制御された火の使用という二つの重要な技術革新が見られるものの、この時期の人類頭蓋の多様性から、こうした技術革新は形態学的多様性にほとんど依存していないだろう、と指摘しています。技術と人類系統とを強く結びつける見解は今でも広範に支持されているようにも思われますが、そうした見解には慎重でなければならないでしょう。
参考文献:
Daura J. et al.(2017): New Middle Pleistocene hominin cranium from Gruta da Aroeira (Portugal). PNAS, 114, 13, 3397–3402.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1619040114
中期更新世のホモ属頭蓋アロエイラ3においては、後頭部骨が失われているものの、頭蓋冠の右半分のほとんどと、鼻腔底の一部および2個の断片的な臼歯のある断片的な右上顎が残っています。臼歯には摩耗が見られます。アロエイラ3の性別・死因は不明です。アロエイラ3の年代は、堆積物のウラン系列法から436000~390000年前頃と推定されています。アシューリアン石器群と共伴するような中期更新世のホモ属の人骨で年代の確実なものは少ないことから、アロエイラ3は中期更新世のヨーロッパにおける人類進化の研究に大きく貢献する、とその意義が指摘されています。ヨーロッパにおけるアシューリアンの出現に関しては、90万年前頃までさかのぼる可能性が指摘されています(関連記事)。
この研究は、アロエイラ3の特徴を分析するとともに、ヨーロッパの他の中期更新世のホモ属頭蓋と比較しています。たとえば、アシューリアン石器群と関連した、スペイン北部の「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)や、イギリス南東部のスウォンズクーム(Swanscombe)遺跡です。これらの遺跡の年代は、海洋酸素同位体ステージ(MIS)11~12となる50万~40万年前頃です。こうしたヨーロッパの中期更新世のホモ属については、エレクトス(Homo erectus)の亜種やハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)や初期ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)などと区分されており、それぞれのホモ属化石の分類が確定しているわけではありません。
この研究は、ヨーロッパの中期更新世のホモ属頭蓋を3区分しています。分類Aはほぼ完全なネアンデルタール人で、おもに20万年前頃以降の化石です。分類Bは、眼窩上隆起や側頭骨や下顎でネアンデルタール人の特徴が見られるものの、神経頭蓋はネアンデルタール人的ではなく、モザイク状の進化を示します。SH頭蓋はBに分類されます。分類Cはイタリアのチェプラーノ(Ceprano)遺跡などのホモ属頭蓋で、残存領域にネアンデルタール人の特徴が見られないか、曖昧です。
アロエイラ3は、ドイツのビルツィングスレーベン(Bilzingsleben)遺跡のホモ属頭蓋と類似した連続して厚い眼窩上隆起や、ドイツのシュタインハイム(Steinheim)頭蓋のような短い乳様突起が見られ、アロエイラ3頭蓋はCに分類される頭蓋によく似ている、とこの研究は評価しています。この研究は、アロエイラ3頭蓋とSH頭蓋など、地理的・年代的には近接しているものの、形態は明確に異なる頭蓋が見られることから、中期更新世のヨーロッパにおいては、人類集団間または集団内の多様性と複雑な人口動態が見られると指摘し、さまざまな水準の孤立と交雑を伴う多様な集団置換を想定しています。
またこの研究は、中期更新世のヨーロッパにおいて、ともにアロエイラ遺跡で確認されている、アシューリアン石器群の拡大と制御された火の使用という二つの重要な技術革新が見られるものの、この時期の人類頭蓋の多様性から、こうした技術革新は形態学的多様性にほとんど依存していないだろう、と指摘しています。技術と人類系統とを強く結びつける見解は今でも広範に支持されているようにも思われますが、そうした見解には慎重でなければならないでしょう。
参考文献:
Daura J. et al.(2017): New Middle Pleistocene hominin cranium from Gruta da Aroeira (Portugal). PNAS, 114, 13, 3397–3402.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1619040114
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