今井宏平『トルコ現代史 オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで』

 これは2月19日分の記事として掲載しておきます。中公新書の一冊として、中央公論新社から2017年1月に刊行されました。本書は、オスマン帝国の崩壊・トルコ共和国の成立から、昨年(2016年)までのトルコの動向を対象としています。本書は経済・社会構造・文芸なども取り上げていますが、ほぼ政治史になっており、政党政治の変遷や民族問題・外交が詳しく解説されています。トルコ現代史については本当に無知なので、教えられるところが多々あったというか、教えられるところばかりでした。

 トルコ共和国は世俗主義を根本的な理念としてきましたが、国民の多数を占める非エリート層において、イスラームの影響力はずっと根強く、政党側がそうした階層からの支持を得るために、すでに1950年代には世俗主義が揺らいでいきました。私はこうした基本的なことすら知らなかったわけで、本書の冒頭でも指摘されているように、おそらくは他の多くの日本人と同様に私も、アタテュルクと現在のエルドアン大統領(もしくは公正発展党政権以降)との間の知識が大きく欠落しています。

 これは、日本とトルコとの関係が、1980年代以降に大きく進展し始めたことが一因なのかもしれません。日本社会におけるトルコへの関心はずっとあまり高くなく、そうした社会で育つと、意識的にトルコについて勉強しようとしなければ、なかなか大まかな流れさえつかめないのだと思います。本書は読者の大半を日本人と想定しているだろうということもあってか、日本とトルコとの関係についても1章を割いており、とくにエルトゥールル号事件については詳しく解説しています。

 世俗主義などトルコ共和国の根本的な理念の揺らぎを抑える役割を果たしてきたのが軍部で、書簡による圧力なども含めて、たびたびクーデタを起こしてきました。本書は、政党政治の進展における軍部の影響について、詳しく解説しています。しかし、トルコ共和国において大きな影響力を有してきた軍部も、昨年7月のクーデタ未遂事件に見られるように、影響力が弱まり、現在では文民政府が軍部にたいして優位な立場を確固たるものにした、と本書は指摘します。

 本書は、このように現在までのトルコ史を解説し、クルド人との間の民族問題や難民問題やテロの頻発といった困難な状況に、現在トルコが置かれていることを指摘します。地域大国であろうとし、じっさいその影響力を軽視できないトルコの今後は、不安定な中東情勢の行く末にも大きな影響を及ぼすと思われます。一度読んだだけでは、本書で取り上げられた政治家・政党をすべて把握できそうにはないので、今後何度か本書を再読しよう、と考えています。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック