ハインリッヒイベントの要因

 ハインリッヒイベントの要因に関する研究(Bassis et al., 2017)が公表されました。ハインリッヒイベントは、ローレンタイド氷床などの氷床から北大西洋へ多数の氷山が流出する大規模な事象です。しかし、数十年にわたる研究で多数の見解が提示されているにも関わらず、ハインリッヒイベントを起こす機構に関してはまだ激しい議論が続いています。この研究は、新しいモデルによる証拠を提示し、ハインリッヒイベントが驚くほど単純な機構によって起こることを示しています。それは、暖かい海水の流入が氷床の分離面を不安定化し、氷山を突然流出させる、というものです。また、海底の地殻均衡の反動が舌状の隆起を生じさせ、海洋との界面の遮断を促進し、ハインリッヒイベントの特徴的な激しさを生み出していることが重要だ、とも指摘されています。ハインリッヒイベントは、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の絶滅とヨーロッパにおける現生人類(Homo sapiens)との「交替劇」とも関わっているのではないか、とも指摘されているだけに(関連記事)、研究の進展が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


気候科学:海洋強制によって起こり地殻均衡によって調節されるハインリッヒイベント

気候科学:氷床のハインリッヒイベントのモデル化

 ハインリッヒイベントは、ローレンタイド氷床などの氷床から北大西洋へ多数の氷山が流出する大規模な事象である。しかし、数十年にわたって研究され、多数の提案がされているにもかかわらず、ハインリッヒイベントを起こす機構は依然として激しい議論の的となっている。J Bassisたちは今回、新しいモデルによる証拠を提示し、ハインリッヒイベントが驚くほど単純な機構によって起こることを示している。すなわち、暖かい海水の流入が氷床の分離面を不安定化し、氷山を突然流出させるのである。重要なのは、海底の地殻均衡の反動が舌状の隆起を生じさせ、海洋との界面の遮断を促進して、ハインリッヒイベントの特徴的な激しさを生み出していることである。



参考文献:
Bassis JN. et al.(2017): Heinrich events triggered by ocean forcing and modulated by isostatic adjustment. Nature, 542, 7641, 332–334.
http://dx.doi.org/10.1038/nature21069

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