女性性器切除の文化的進化
これは2月10日分の記事として掲載しておきます。アフリカの特定の民族集団における女性性器切除(FGC)の文化的進化に関する研究(Howard, and Gibson., 2017)が公表されました。女性性器切除の風習は、とくにアフリカおよび中東各地の多くの民族集団において確認されており、場合によっては、非医学的な理由から女性の性器に各種の有害な改変を加え、産科的・性的・心理的に重大な影響を生じることがあります。したがって、その撲滅は国際社会の優先課題とされています。しかし、この風習に対する組織的活動は成果が限定的な場合が多く、この風習が存続する行動的・進化的理由の理解をさらに深めることが、的を絞った的確な活動につながると考えられています。
この研究は、アフリカ5ヶ国(ナイジェリア・セネガル・マリ・ブルキナファソ・コートジボワール)の47民族集団の6万1000人を超える女性から得た健康および人口統計のデータを利用して、女性性器切除の進化的基盤を調べました。その結果、全体として、ある民族集団内で女性性器切除の実施率が高いと、1人の女児に切除が施される可能性は、その母親に切除が行われていたかどうかの影響を受けることなく高くなることが明らかになりました。
また、民族集団内で多数派に属している母親は、切除が行われているかどうかによらず、40歳時点での生存子数による評価で、少数派に対して生殖上有利であることも明らかになりました。この研究は、結婚可能性の高さと社会的ネットワークへの帰属が(資源や支援の利用機会によって)、この結果を説明する可能性を示唆しています。そのため、女性性器切除が高頻度で行われている集団では、切除が行われた女性に進化的適応度の利益がある、と指摘されています。
なお、女性性器切除実施率の低い集団では、切除を受けた母親の娘が切除を受ける可能性が低くなりますが、その反対は必ずしも真ではない、と指摘されています。女性性器切除実施率の高い集団における非切除母の娘が切除を受ける可能性は、女性性器切除実施率同様に高くなるわけではありません。このことから、ある家族によってこの風習が一度取りやめられると、その復活には抵抗が働くのではないか、と示唆されています。
この研究は、切除の頻度がほぼ50%である集団がほとんど存在しないことも明らかにしました。これは、現在のところ高実施率の集団で切除の頻度を50%未満に減らせれば、多数派であることの生殖的利益が非切除者へ切り替わり、この風習の撲滅をさらに進める助けになる可能性を示唆しています。個人レベルと集団レベルの女性性器切除実施の関係についてのそうした理解は、今後の介入の立案に利用することができるのではないか、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
女性性器切除の文化的進化
アフリカの特定の民族集団における女性性器切除(FGC)の広がりは、(健康や幸福の指標ではなく、母親1人あたりの生存子数によって評価される)進化的適応度の観点から解釈することができる、という論文が、今週掲載される。この研究は、この風習について、FGCが高頻度で行われる集団に属する女性に生殖的利益を与えるが、この風習の頻度が低い集団では生殖的不利益になることを示唆している。研究チームは、この風習を撲滅するための組織的な運動には、FGCの存続する進化的理由を理解することが有益であろうと指摘している。
FGCという風習は、特にアフリカおよび中東各地の多くの民族集団に認められる。場合によってそれは、非医学的な理由から女性の性器に各種の有害な改変を加え、それが産科的、性的、および心理的に重大な影響を生じることがある。従って、その撲滅は国際社会の優先課題である。しかし、この風習に対する組織的活動は成果が限定的な場合が多く、この風習が存続する行動的、進化的理由の理解をさらに深めることが、的を絞った的確な活動につながると考えられる。Janet HowardとMhairi Gibsonは、アフリカ5カ国(ナイジェリア、セネガル、マリ、ブルキナファソ、コートジボワール)の47民族集団の6万1000人を超える女性から得た健康および人口統計のデータを利用して、FGCの進化的基盤を調べた。その結果、全体として、ある民族集団内でFGCの実施率が高いと、1人の女児に切除が施される可能性は、その母親に切除が行われていたかどうかの影響を受けることなく高くなることが分かった。また、民族集団内で多数派に属している母親は、切除が行われているかどうかによらず、40歳時点での生存子数による評価で、少数派に対して生殖上有利であることも分かった。研究チームは、結婚可能性の高さと社会的ネットワークへの帰属が(資源や支援の利用機会によって)この結果を説明する可能性を示唆している。そのため、FGCが高頻度で行われている集団では、切除が行われた女性に進化的適応度の利益があることがわかった。
注目すべきことに、FGC実施率の低い集団では、切除を受けた母親の娘が切除を受ける可能性が低くなるが、その反対は必ずしも真ではない。高FGC集団の非切除母の娘が切除を受ける可能性は、FGC実施率同様に高くなるわけではないのである。このことから、ある家族によってこの風習が一度取りやめられると、その復活には抵抗が働く、ということが期待される。研究チームは、切除の頻度がほぼ50%である集団がほとんど存在しないことも発見した。このことは、現在のところ高実施率の集団でこの風習を50%未満に減らすことができれば、多数派であることの生殖的利益が非切除者へ切り替わり、この風習の撲滅をさらに進める助けになるかもしれないことを示唆している。個人レベルと集団レベルのFGC実施の関係に関するそうした理解は、今後の介入の立案に利用することができる。
関連するNews & Views記事では、Katherine Wanderが次のように述べている。「…介入は、コミュニティー内の切除女性と非切除女性との社会的なつながりを育むことを試みることによって、切除を受けずにいることの社会的コストを軽減し、切除女性有利であるコストと利益のバランスを変化させる可能性がある」。
参考文献:
Howard JA, and Gibson MA.(2017): Frequency-dependent female genital cutting behaviour confers evolutionary fitness benefits. Nature Ecology & Evolution, 1, 0049.
http://dx.doi.org/10.1038/s41559-016-0049
この研究は、アフリカ5ヶ国(ナイジェリア・セネガル・マリ・ブルキナファソ・コートジボワール)の47民族集団の6万1000人を超える女性から得た健康および人口統計のデータを利用して、女性性器切除の進化的基盤を調べました。その結果、全体として、ある民族集団内で女性性器切除の実施率が高いと、1人の女児に切除が施される可能性は、その母親に切除が行われていたかどうかの影響を受けることなく高くなることが明らかになりました。
また、民族集団内で多数派に属している母親は、切除が行われているかどうかによらず、40歳時点での生存子数による評価で、少数派に対して生殖上有利であることも明らかになりました。この研究は、結婚可能性の高さと社会的ネットワークへの帰属が(資源や支援の利用機会によって)、この結果を説明する可能性を示唆しています。そのため、女性性器切除が高頻度で行われている集団では、切除が行われた女性に進化的適応度の利益がある、と指摘されています。
なお、女性性器切除実施率の低い集団では、切除を受けた母親の娘が切除を受ける可能性が低くなりますが、その反対は必ずしも真ではない、と指摘されています。女性性器切除実施率の高い集団における非切除母の娘が切除を受ける可能性は、女性性器切除実施率同様に高くなるわけではありません。このことから、ある家族によってこの風習が一度取りやめられると、その復活には抵抗が働くのではないか、と示唆されています。
この研究は、切除の頻度がほぼ50%である集団がほとんど存在しないことも明らかにしました。これは、現在のところ高実施率の集団で切除の頻度を50%未満に減らせれば、多数派であることの生殖的利益が非切除者へ切り替わり、この風習の撲滅をさらに進める助けになる可能性を示唆しています。個人レベルと集団レベルの女性性器切除実施の関係についてのそうした理解は、今後の介入の立案に利用することができるのではないか、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
女性性器切除の文化的進化
アフリカの特定の民族集団における女性性器切除(FGC)の広がりは、(健康や幸福の指標ではなく、母親1人あたりの生存子数によって評価される)進化的適応度の観点から解釈することができる、という論文が、今週掲載される。この研究は、この風習について、FGCが高頻度で行われる集団に属する女性に生殖的利益を与えるが、この風習の頻度が低い集団では生殖的不利益になることを示唆している。研究チームは、この風習を撲滅するための組織的な運動には、FGCの存続する進化的理由を理解することが有益であろうと指摘している。
FGCという風習は、特にアフリカおよび中東各地の多くの民族集団に認められる。場合によってそれは、非医学的な理由から女性の性器に各種の有害な改変を加え、それが産科的、性的、および心理的に重大な影響を生じることがある。従って、その撲滅は国際社会の優先課題である。しかし、この風習に対する組織的活動は成果が限定的な場合が多く、この風習が存続する行動的、進化的理由の理解をさらに深めることが、的を絞った的確な活動につながると考えられる。Janet HowardとMhairi Gibsonは、アフリカ5カ国(ナイジェリア、セネガル、マリ、ブルキナファソ、コートジボワール)の47民族集団の6万1000人を超える女性から得た健康および人口統計のデータを利用して、FGCの進化的基盤を調べた。その結果、全体として、ある民族集団内でFGCの実施率が高いと、1人の女児に切除が施される可能性は、その母親に切除が行われていたかどうかの影響を受けることなく高くなることが分かった。また、民族集団内で多数派に属している母親は、切除が行われているかどうかによらず、40歳時点での生存子数による評価で、少数派に対して生殖上有利であることも分かった。研究チームは、結婚可能性の高さと社会的ネットワークへの帰属が(資源や支援の利用機会によって)この結果を説明する可能性を示唆している。そのため、FGCが高頻度で行われている集団では、切除が行われた女性に進化的適応度の利益があることがわかった。
注目すべきことに、FGC実施率の低い集団では、切除を受けた母親の娘が切除を受ける可能性が低くなるが、その反対は必ずしも真ではない。高FGC集団の非切除母の娘が切除を受ける可能性は、FGC実施率同様に高くなるわけではないのである。このことから、ある家族によってこの風習が一度取りやめられると、その復活には抵抗が働く、ということが期待される。研究チームは、切除の頻度がほぼ50%である集団がほとんど存在しないことも発見した。このことは、現在のところ高実施率の集団でこの風習を50%未満に減らすことができれば、多数派であることの生殖的利益が非切除者へ切り替わり、この風習の撲滅をさらに進める助けになるかもしれないことを示唆している。個人レベルと集団レベルのFGC実施の関係に関するそうした理解は、今後の介入の立案に利用することができる。
関連するNews & Views記事では、Katherine Wanderが次のように述べている。「…介入は、コミュニティー内の切除女性と非切除女性との社会的なつながりを育むことを試みることによって、切除を受けずにいることの社会的コストを軽減し、切除女性有利であるコストと利益のバランスを変化させる可能性がある」。
参考文献:
Howard JA, and Gibson MA.(2017): Frequency-dependent female genital cutting behaviour confers evolutionary fitness benefits. Nature Ecology & Evolution, 1, 0049.
http://dx.doi.org/10.1038/s41559-016-0049
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