関連していなかった人類の脳と歯の進化

 これは1月5日分の記事として掲載しておきます。人類の脳と歯の進化に関する研究(Gómez-Robles et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。現代人も含む後期ホモ属の重要な特徴として、犬歯の縮小と脳サイズの増大が挙げられます。人類は、より大きな脳により道具の製作が可能となり、道具の使用により大きな歯を持つ必要性が減少した、というように両者を関連づける見解もありますが、この研究は、各人類系統における犬歯の縮小と脳サイズの増大の速度を定量的に検証し、この問題について論じています。

 その結果明らかになったのは、人類の犬歯は比較的一貫して中立的速度で変化してきた一方で、脳サイズの変化は人類の各系統において異なる速度で変化した、ということです。脳サイズの増大はホモ属の系統において強く見られ、急速なものだった、と指摘されています。こうした知見から、人類の脳と歯の進化に関しては、単純な因果関係は認められず、異なる生態学的および行動学的要因が影響を及ぼしたのではないか、と推測されています。犬歯の縮小に関しては、雄の間の闘争が抑制的になったことと関連しており、繁殖形態を中心とする社会構造に起因するのではないか、とも思うのですが、まだ思いつきにすぎません。

 また、人類は、より大きな脳により道具の製作が可能となり、道具の使用により大きな歯を持つ必要性が減少した、というような見解に反する知見も指摘されています。人類は、犬歯が大きく縮小する前に脳サイズが増大し、脳サイズが増大する前に石器の製作を始めた、というわけです。人類の進化は複雑であり、単純明快な見解は要注意と考えるべきなのでしょう。たとえば、現生人類(Homo sapiens)の進化および異なる系統との交雑の問題はそうで、一時期、単純明快な見解(現生人類アフリカ単一起源説のなかでも完全置換説)が通説として認められそうになったとも言えそうですが、今ではそうした見解はほぼ否定されています。


参考文献:
Gómez-Robles A. et al.(2017): Brain enlargement and dental reduction were not linked in hominin evolution. PNAS, 114, 3, 468–473.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1608798114

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック