尾本恵市『ヒトと文明 狩猟採集民から現代を見る』

 これは1月4日分の記事として掲載しておきます。ちくま新書の一冊として、筑摩書房から2016年12月に刊行されました。本書は人類史の概説とも言えますが、著者の問題意識は現代社会への強い危機感にあり、現代人への警鐘と受け止めるべきなのかもしれません。ただ、本書は著者の自伝的性格も強いので、人類史の概説にしても、現代社会の危機の指摘にしても、やや雑然としているというか、体系的ではないところがあります。もっとも、著者の少年時代からの話は研究史にもなっているので、興味深く読み進められました。

 現生人類(Homo sapiens)の出アフリカまでの解説については、簡略なので単純化されたところもありますし、5万年前頃を大きくさかのぼらないとされている出アフリカの年代をはじめとして疑問もありますが(関連記事)、新書での一般向けの解説ですから、大きな問題というわけではないように思います。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)だけではなく、種区分未定のデニソワ人(Denisovan)や現生人類ではない更新世フローレス人(Homo floresiensis)といった絶滅ホモ属への言及もあればよかったと思いますが、本書の主題ではないので仕方のないところでしょうか。

 本書の主題である現代社会への強い危機意識については、妥当なところが少なくないとは思います。確かに、地球資源の大規模な利用を前提とした広範な地域・階層での「高度な生活水準」は、数百年以内に破綻する可能性もあります。しかし、狩猟採集民・先住民族の問題を強く訴える本書は、環境・人権など多くの深刻な問題を抱える現代社会が学ぶべき対象だとして、狩猟採集民・先住民族をかなり美化しているようにも思われます。本書は、狩猟採集民・先住民族社会における争いの少なさや自然との共存を強調しているのですが、それは、著者の理想・規範を狩猟採集民・先住民族に過剰に投影しているのではないか、とも思います。もっとも、本書は多文化主義の問題点も指摘してはいますが。


参考文献:
尾本恵市(2016) 『ヒトと文明 狩猟採集民から現代を見る』(筑摩書房)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック