小原嘉明『入門!進化生物学 ダーウィンからDNAが拓く新世界へ』

 これは1月12日分の記事として掲載しておきます。中公新書の一冊として、中央公論新社から2016年12月に刊行されました。本書は、現在の進化学の成果とともに学説史を参照し、進化学がどのように成立・展開してきたのか、分かりやすく解説しています。題名に入門とありますが、日本語で読める進化学の最新の入門書としてたいへん優れていると思います。これは、理論的な問題を扱いつつも、本書があくまでも具体的事例を取り上げて解説しようとしているからでもあるのでしょう。近いうちにまた再読したい一冊です。

 本書で強調されている点で私が注目したところはいくつかありますが、まずは、地球の構造上絶滅は進化において珍しくなく、進化の一側面である、ということです。生物史において絶滅が珍しくないことはよく指摘されていますが、本書は、地球の構造上、環境の変化・災害は避けられない、という理由を強調しています。また、発生に関するHox遺伝子群や、コドンとアミノ酸の対応など、進化史において大きく変わらず、厳重に保存されているものがあることも、進化の一側面として強調されています。これと関連して、動物のボディプランはカンブリア紀に定まった後、大きく変わってはおらず、動物の多様化は基本的なボディプランの下で進行したことが指摘されています。

 具体的な事例とともに利他性の進化が大きく取り上げられていることも注目されますが、本書で私が最も感銘を受けたのは、有性生殖の動物の繁殖に関する解説です。有性生殖の動物はじつに多様な繁殖形態を見せており、本書の具体的な事例は本当に興味深いものです。本書は、有性生殖の動物の繁殖においては雌雄の負担の非対称性が大きい、と強調し、それが多様な繁殖形態をもたらしている、と指摘しています。やはり、有性生殖の動物における性差はたいへん重要な問題と言えるでしょう。中立進化説を高く評価しているのも本書の特徴で、中立進化説の学説史における位置づけに関しては、今後も調べていこうと考えています。

 特定の環境への過剰な適応は長期的な観点からは問題がある、との指摘も注目されます。特殊な環境要因は一般的な環境要因より地学的変動の影響を受けて攪乱されやすいので、特殊な環境への特化は絶滅の危険性を高める、というわけです。本書は、特定の食物に依存する動物よりも雑食の動物の方が長期にわたって存続できる可能性が高いことを指摘していますが、その意味では、人間には長期間存続できる重要な条件の一つが備わっている、と言えそうです。また本書では言及されていませんが、特定の環境への過剰な適応の危険性は、優生学との関連でも注目されます。優生学は特定の環境への過剰な適応を目的にしているとも言えるのではないか、と私が考えているためです。


参考文献:
小原嘉明(2016)『入門!進化生物学 ダーウィンからDNAが拓く新世界へ』(中央公論新社)

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