ネアンデルタール人による持続的な土地の利用
ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)による持続的な土地の利用に関する研究(Shaw et al., 2016)が報道されました。この研究が検証したのは、多くの石器や動物の骨が発見されている、英仏海峡に位置するチャンネル諸島のジャージー島にあるラコットドサンブリレード(La Cotte de St Brelade)遺跡です。この研究で検証対象となったのは、おもに海洋酸素同位体ステージ(MIS)7~6の各層で、温暖期から寒冷期へという大きな気候変動がありました。
この研究は、石器の密度・石器の再加工・石材から推測される石器の輸送などといった観点からラコテドサンブリラデ遺跡の石器を分析し、遅くとも24万~4万年前頃まで、ネアンデルタール人が持続的にこの地を利用していた、と指摘します。この研究が強調しているのは、MIS7~6において、気候が大きく変動し、景観も変わったと考えられるのに、遺跡が持続的に利用され、そのやり方に変化が見られる、ということです。この研究は、ネアンデルタール人が環境変動に適応できていたことと、そこから窺えるネアンデルタール人の認知能力について言及しています。
具体的には、温暖なMIS7のE層では、石器一式を運ぶ人々が短期的な利用を繰り返している様子が窺えました。MIS7~6へと移行し寒冷化していくA層では、石器一式が輸送されて再加工され、20kmを超える移動もあったことが窺えます。この移動にどの程度の時間を要したのか、証明不可能ですが、この研究は数日だと推測しています。MIS6の寒冷期となる第5層では、地元の石材が利用され、長期間ラコテドサンブリラデ遺跡周辺にいたことが窺えます。寒冷期には、現在では海面下の広大な陸地が出現しました。
このように、気候変動とそれに伴う景観の変化にも関わらず、ネアンデルタール人は持続的にラコテドサンブリラデ遺跡とその周辺を利用していた、とこの研究は指摘します。この研究は、こうした持続的な土地の利用とより大きな社会的集団の出現との関連を指摘しており、その考古学的指標として、ルヴァロワ(Levallois)技法の広範な採用といった30万年前頃からの明らかな技術的変化を挙げています。同様に、この頃から、より効率的な選択的狩猟へと移行していったことも指摘されています。
この研究は、そうした変化の背景として認知能力の発展を想定しており、気候・景観の大きな変化にも関わらず、ラコテドサンブリラデ遺跡で見られるような長期間の持続的な利用が可能となったのは、地図化などの地理的能力の発展があったからではないか、との見解を提示しています。ネアンデルタール人の柔軟性や適応能力は、現生人類(Homo sapiens)との比較で低く見られることが多いようにも思われますが、ネアンデルタール人の系統は大きな気候変動にも関わらずヨーロッパで数十万年存続してきたわけで、少なくとも一定以上の柔軟性や適応能力を有していた、と考えるべきなのでしょう。
参考文献:
Shaw A. et al.(2016): The archaeology of persistent places: the Palaeolithic case of La Cotte de St Brelade, Jersey. Antiquity, 90, 354, 1437–1453.
http://dx.doi.org/10.15184/aqy.2016.212
この研究は、石器の密度・石器の再加工・石材から推測される石器の輸送などといった観点からラコテドサンブリラデ遺跡の石器を分析し、遅くとも24万~4万年前頃まで、ネアンデルタール人が持続的にこの地を利用していた、と指摘します。この研究が強調しているのは、MIS7~6において、気候が大きく変動し、景観も変わったと考えられるのに、遺跡が持続的に利用され、そのやり方に変化が見られる、ということです。この研究は、ネアンデルタール人が環境変動に適応できていたことと、そこから窺えるネアンデルタール人の認知能力について言及しています。
具体的には、温暖なMIS7のE層では、石器一式を運ぶ人々が短期的な利用を繰り返している様子が窺えました。MIS7~6へと移行し寒冷化していくA層では、石器一式が輸送されて再加工され、20kmを超える移動もあったことが窺えます。この移動にどの程度の時間を要したのか、証明不可能ですが、この研究は数日だと推測しています。MIS6の寒冷期となる第5層では、地元の石材が利用され、長期間ラコテドサンブリラデ遺跡周辺にいたことが窺えます。寒冷期には、現在では海面下の広大な陸地が出現しました。
このように、気候変動とそれに伴う景観の変化にも関わらず、ネアンデルタール人は持続的にラコテドサンブリラデ遺跡とその周辺を利用していた、とこの研究は指摘します。この研究は、こうした持続的な土地の利用とより大きな社会的集団の出現との関連を指摘しており、その考古学的指標として、ルヴァロワ(Levallois)技法の広範な採用といった30万年前頃からの明らかな技術的変化を挙げています。同様に、この頃から、より効率的な選択的狩猟へと移行していったことも指摘されています。
この研究は、そうした変化の背景として認知能力の発展を想定しており、気候・景観の大きな変化にも関わらず、ラコテドサンブリラデ遺跡で見られるような長期間の持続的な利用が可能となったのは、地図化などの地理的能力の発展があったからではないか、との見解を提示しています。ネアンデルタール人の柔軟性や適応能力は、現生人類(Homo sapiens)との比較で低く見られることが多いようにも思われますが、ネアンデルタール人の系統は大きな気候変動にも関わらずヨーロッパで数十万年存続してきたわけで、少なくとも一定以上の柔軟性や適応能力を有していた、と考えるべきなのでしょう。
参考文献:
Shaw A. et al.(2016): The archaeology of persistent places: the Palaeolithic case of La Cotte de St Brelade, Jersey. Antiquity, 90, 354, 1437–1453.
http://dx.doi.org/10.15184/aqy.2016.212
この記事へのコメント