ヨーロッパの初期人類の食性と火の不使用

 これは12月17日分の記事として掲載しておきます。ヨーロッパの初期人類の歯石を分析した研究(Hardy et al., 2017)が報道されました。この研究が分析対象としたのは、スペイン北部のアタプエルカの「象の穴(Sima del Elefante)」遺跡で発見された、120万年前頃の人類の臼歯の歯石です。この人類の種区分は明確になっていませんが、ホモ属であることは間違いないようです。ヨーロッパの初期人類の痕跡としては、140万年前頃の歯(関連記事)や157万年前頃の石器(関連記事)が発見されており、いずれもホモ属なのは間違いないでしょう。

 「象の穴」遺跡の120万年前頃の歯石には、生の動物組織の痕跡・火の通った痕跡のないデンプン顆粒・マツの花粉・昆虫の断片・木の断片などが確認されました。そのためこの研究は、「象の穴」遺跡の120万年前頃の人類は食事にさいして火を使っていなかっただろう、との見解を提示しています。人類がいつ制御された火の使用を始めたのか、議論が続いていますが、現時点で最古の確実な証拠はアフリカ南部で発見されており、その年代は100万年前頃となります(関連記事)。その意味で、120万年前頃のイベリア半島北部の人類が火を使用していなかったとしても、不思議ではありません。

 アフリカ外での制御された火の使用の確実な証拠は80万年前頃までさかのぼり、スペインのネグラ洞窟(Cueva Negra)とイスラエルのジスルバノトヤコブ(Gesher Benot Ya‘aqov)遺跡(関連記事)で発見されています。そのためこの研究は、アフリカ外では120万~80万年前頃の間に制御された火の使用が始まった、との見解を提示しています。火の使用により人類はより大きなエネルギーの摂取が可能となるので、これが、中期更新世(781000~126000年前頃)以降の脳容量の増大や、調理されたデンプン質食品の処理に必要な唾液アミラーゼの発展と関連しているかもしれない、と指摘されています。「パレオダイエット」での想定とは異なり、デンプン質の食品は旧石器時代においても重要だったのではないか、というわけです。

 また、歯石に見られた木の断片は、爪楊枝として使われていた可能性がある、とも指摘されています。手先が器用になったホモ属は、古くから口腔衛生活動を行なっていたのかもしれません。歯石の分析から、当時の「象の穴」遺跡周辺は森林環境だった、と推測されています。歯石は、人類の食性や古環境の復元など人類進化の解明に重要な役割を果たすことが期待される、とこの研究は指摘しています。歯石の研究は、今後注目すべき分野と言えるでしょう。


参考文献:
Hardy K. et al.(2017): Diet and environment 1.2 million years ago revealed through analysis of dental calculus from Europe’s oldest hominin at Sima del Elefante, Spain. The Science of Nature, 104, 2.
http://dx.doi.org/10.1007/s00114-016-1420-x

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