アファレンシスの新たな足跡と社会構造(追記有)

 これは12月16日分の記事として掲載しておきます。タンザニアのラエトリ(Laetoli)で発見された新たな人類の足跡に関する研究(Masao et al., 2016)が報道されました。ラエトリでは366万年前頃のアウストラロピテクス属のものと思われる足跡が発見されており、アファレンシス(Australopithecus afarensis)に分類されています。この足跡は遺跡Gで発見され、3個体分(G1・G2・G3)が確認されています。この研究は、新たに発見された遺跡Sの人類の足跡について報告しています。遺跡Sでは、人類以外にもウマ・サイ・キリンの足跡が発見されています。遺跡Sで発見された人類の足跡は2個体分で(S1・S2)、S1は複数、S2は1個が確認されています。S1・S2もアファレンシスに分類されると推定されており、G1・G2・G3と同じ方向に移動していました。

 足跡の平均的サイズは、S1が26.1±1.05cm、S2が23.1cm、G1が18.0 cm 、G2が22.5 cm、 G3が20.9 cmです。推定身長は、S1が161~168cm、S2が142~149cm、G1が111~116 cm 、G2が139~145 cm、 G3が129~135 cmです。推定体重はS1が41.3~48.1kg、S2が36.5~42.4kg、G1 が28.5~33.1kg 、G2 が35.6~41.4kg、 G3が33.1~38.5 kgです。アファレンシスには身長が152~167cm程度の個体(A.L. 333)も存在していましたが(関連記事)、S1はそれをも上回り、現時点では最大のアファレンシス個体と言えそうです。この研究は、初期人類の身体サイズの変異幅が以前の推定よりもずっと大きかった可能性を指摘しています。これは、過去250万年間に(ホモ属系統の)人類は脳が大きくなってから身体サイズも大きくなった、との見解に再考を迫るのではないか、と指摘されています。

 この研究は、背の高い個体は集団の支配的な男性で、他の個体は女性もしくは少年だった可能性を提示しています。アファレンシスにおいては性的二型が大きかったのであり、現代人やチンパンジーよりもゴリラの方に社会構造は近かったのではないか、とこの研究は示唆しています。性的二型が大きいと、支配的な雄1個体と複数の雌およびその支配的な雄との間の子供から構成されるハーレム社会を形成するのではないか、と一般的には考えられているように思います。この研究も、アファレンシスの性的二型が大きいと考えられることから、アファレンシスがハーレム社会を形成していた可能性を想定しています。

 しかし、この研究には関わっていないローチ(Neil Roach)博士は、社会構造と身体サイズの性差との関係はそれほど明確ではない、と指摘しています。ローチ博士は、アファレンシスにおける身体サイズの性差の大きさを認めつつ、アファレンシスは複数の雄と雌から構成される集団を形成していたのではないか、と考えています。アファレンシスの性的二型については以前より議論が続いており、アファレンシスの性的二型はさほど大きくなく、現代人と類似していた、との見解も提示されています(関連記事)。この研究も、決定的な証拠を提示できたわけではないので、議論は当分収束しないでしょう。


参考文献:
Masao FT. et al.(2016): New footprints from Laetoli (Tanzania) provide evidence for marked body size variation in early hominins. eLife, 5, 19568.
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.19568


追記(2016年12月16日)
 ナショナルジオグラフィックでも報道されました。

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