檀上寛『天下と天朝の中国史』
これは12月15日分の記事として掲載しておきます。岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店より2016年8月に刊行されました。天下と天朝という観点からの中国通史となっています。天下には中国王朝の実効的支配領域(中華)を指す狭義の天下と、「中華」と「夷狄」の両方を指す広義の天下がある、というのが本書の基本認識です。また、東アジア世界においては、中華世界の(知識層の)天下観念(大天下)をもとに、やがて日本も含めて周辺地域においても天下観念(小天下)が形成されていき、大天下と小天下が併存していた、と指摘されています。狭義の天下と広義の天下の厳密な区別はあまりなかったようで、さまざまな天下観念の併存といい、天下観念には融通無碍なところがあるようです。それだけに、体制教義に利用しやすかった、と言えるかもしれません。
本書は融通無碍な天下観念の変遷を時代順に解説していきますが、画期としているのが大元ウルスの成立です。これにより、広義の「天下一家」が初めて実現した、と本書はその意義を指摘しています。現在の中華人民共和国の広大な支配領域の起源は大元ウルスにある、とも言えるでしょう。直接的な起源となると、ダイチングルン(清朝)の乾隆帝時代と言うべきかもしれませんが。本書は現代まで視野に入れており、現代中国の内外含めての世界観に、伝統的な天下観念が大きく影響を与えているのではないか、との見解が提示されています。
ほぼ同時期に刊行された、同じような主題の岡本隆司『中国の論理 歴史から解き明かす』(関連記事)と比較すると、ともに現代まで視野に入れた通史ですが、本書の方が前近代の比重がずっと高くなっています。その分、本書の方が近代における西洋の衝撃についての解説がやや手薄なのですが、新書の前近代中国通史ということでは、なかなか充実していると思います。伝統的な(前近代の)中国の世界観が現代中国社会にどのような影響を与えているのか、専門家でも的確な理解はなかなか難しいのかもしれませんが、世界とのどの地域も、前近代の認識を前提として近代化が進行したわけで、前近代の世界観の研究は現代社会の理解に必須と言えるでしょう。その意味で、日本にとってきわめて重要な中国の動向を理解するさいに、本書は有益だと思います。
本書は融通無碍な天下観念の変遷を時代順に解説していきますが、画期としているのが大元ウルスの成立です。これにより、広義の「天下一家」が初めて実現した、と本書はその意義を指摘しています。現在の中華人民共和国の広大な支配領域の起源は大元ウルスにある、とも言えるでしょう。直接的な起源となると、ダイチングルン(清朝)の乾隆帝時代と言うべきかもしれませんが。本書は現代まで視野に入れており、現代中国の内外含めての世界観に、伝統的な天下観念が大きく影響を与えているのではないか、との見解が提示されています。
ほぼ同時期に刊行された、同じような主題の岡本隆司『中国の論理 歴史から解き明かす』(関連記事)と比較すると、ともに現代まで視野に入れた通史ですが、本書の方が前近代の比重がずっと高くなっています。その分、本書の方が近代における西洋の衝撃についての解説がやや手薄なのですが、新書の前近代中国通史ということでは、なかなか充実していると思います。伝統的な(前近代の)中国の世界観が現代中国社会にどのような影響を与えているのか、専門家でも的確な理解はなかなか難しいのかもしれませんが、世界とのどの地域も、前近代の認識を前提として近代化が進行したわけで、前近代の世界観の研究は現代社会の理解に必須と言えるでしょう。その意味で、日本にとってきわめて重要な中国の動向を理解するさいに、本書は有益だと思います。
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