寒冷な草原地帯におけるネアンデルタール人の食性

 これは11月5日分の記事として掲載しておきます。寒冷な草原地帯におけるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の食性に関する研究が報道されました。これは、ライデン大学の学位審査でのパワー(Robert Power)氏の報告です。ネアンデルタール人の食性については関心が高く、多くの研究が提示されています。この研究は、クロアチア・イタリア・ロシアの6遺跡からネアンデルタール人の歯を48個集め、歯垢の粒子を分析してネアンデルタール人の食性を推定しました。この研究は、20年以上食性が観察されており、最近自然死したチンパンジーの歯垢を分析することで、歯垢が食性を反映していると明らかにし、この手法の信頼性を確認しています。

 この分析の結果、ネアンデルタール人の食性において、気候・年代を問わず植物が重要な一部を構成しており、ネアンデルタール人が日頃から植物を食べていたことが明らかになった、と報告されています。ユーラシアでも温暖な地域である地中海沿岸のネアンデルタール人が植物を食べていたことはこれまで指摘されていたものの(関連記事)、マンモスステップとも言われる、ほぼ樹木が見られない寒冷な草原地帯では大型野生動物の肉に依存していたとされるので(あくまでもこの研究の認識ですが)、地域を問わずネアンデルタール人が植物を食べていたことが明らかになった意義は大きい、というわけです。この研究は、ネアンデルタール人の食性が単調なものではなかったことを明らかにしつつ、現生人類(Homo sapiens)とは異なる独特のパターンをネアンデルタール人は有していただろう、と指摘しています。

 寒冷な草原地帯で食資源を大型動物に依存していたことは、現生人類と比較してのネアンデルタール人の柔軟性の欠如であり、ネアンデルタール人絶滅の一因になっただろう、というような見解をこの研究は否定しています。ネアンデルタール人はおもにヨーロッパで大きな気候変動のなか長期間(ネアンデルタール人の成立をいつと考えるかにより異なってきますが、短くとも20万年近くにはなると思われます)存続してきた人類系統であり、ある程度以上の柔軟性を有していたものと思われます。その意味で、この研究の見解自体はさほど意外ではありません。

 また、ベルギー南部では、ネアンデルタール人が食資源を肉のみに依存していたのではなく、およそ20%は植物性資源に依存していたことも明らかになっており(関連記事)、その意味でもこの研究の見解は意外ではありません。ネアンデルタール人の食性に関しては、ある意味では現生人類よりも柔軟だったところもある、との見解も提示されています(関連記事)。現生人類アフリカ単一起源説が優勢となって以降のネアンデルタール人が、過小評価される傾向にあったことは否定できず、この研究も含めて、そうした傾向への見直しが進んでいるように思われます。

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