クジラを食べていた古代グリーンランド人

 古代グリーンランド人がクジラを食べていた証拠を報告した研究(Seersholm et al., 2016)が公表されました。過去4500年の間に人類は何度もグリーンランドに移動していますが、グリーンランドでクジラの本格的な狩猟・利用を始めたのは、紀元後1200~1400年頃にグリーンランドに移動したトゥーレ文化のイヌイットだと考えられています。その主な根拠は、これ以前には捕鯨に適した武器を示す証拠が発見されていないことです。

 この研究は、最古のものでは紀元前2000年となる考古学的堆積物から抽出されたDNAの解析により、この時期のグリーンランド人の生存にとって、ホッキョククジラとその他の大型動物(トナカイやセイウチなど)が重要だったことを示しています。またこの研究は、当時のグリーンランド人が住居とは別の場所で発見もしくは狩猟したクジラの死骸から肉・皮膚・脂肪を集めていた、という見解を提示しています。当時、クジラは豊富な海洋資源だったので、広く利用されていたと考えられ、他の初期文化のイヌイットにも普及していた可能性がある、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【遺伝】グリーンランドの古代人はクジラを食事にしていた

 クジラとその他の大型哺乳類は、先史時代のグリーンランド人の食事として、これまで考えられていた以上に重要な役割を果たしていたことを明らかにした論文が、今週掲載される。

 ヒトは、過去4,500年の間に何度もグリーンランドに移動しており、その文化に関する知識は、保存された化石の考古学的分析という従来の方法に主として基づいている。今回、Frederik Seersholmの研究グループは、最も古いもので紀元前2,000年の考古学的堆積物から抽出されたDNAの解析によって、この化石記録の欠落部分を明らかにした。特に、こうした堆積物からシロイルカの化石が発見されることはまれだが、約4,000年前のグリーンランド人の生存にとって、ホッキョククジラとその他の大型動物(トナカイ、セイウチなど)が重要だったことがDNA証拠によって示唆されている。調査対象となった遺跡でクジラの骨が見つからなかったが、Seersholmたちは、当時のヒトが、住居とは別の場所で発見し、あるいは狩猟したクジラの死骸からクジラの肉、皮膚、脂肪を集めていたという考えを示している。

 クジラの利用と狩猟を初めて大々的に行ったのは、紀元1200~1400年にグリーンランドに移動したトゥーレ文化のイヌイットだと考えられているが、その主な根拠は、それより古い時代のものとされる捕鯨に適した武器を示す証拠が見つかっていないことだ。しかし、その当時のクジラは豊富な海洋資源で、広く利用されていたと考えられ、他の初期文化のイヌイットにも普及していた可能性がある。



参考文献:
Seersholm FV. et al.(2016): DNA evidence of bowhead whale exploitation by Greenlandic Paleo-Inuit 4,000 years ago. Nature Communications, 7, 13389.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms13389

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