鮮新世~更新世の移行期のアフリカ東部の人類の食性

 これは11月20日分の記事として掲載しておきます。鮮新世~更新世の移行期のアフリカ東部の人類の食性に関する研究(Martínez et al., 2016)が報道されました。この研究がおもに分析対象としたのは、アウストラロピテクスよりも頑丈な形態のパラントロプス属のエチオピクス(Paranthropus aethiopicus)およびボイセイ(Paranthropus boisei)と、初期ホモ属であるエルガスター(Homo ergaster)です。エルガスターという種区分を認めず、アジアの初期ホモ属も含めてエレクトス(Homo erectus)としてまとめる見解も根強くあります。

 その頑丈な形態・大きな下顎と臼歯から、パラントロプス属は歯を摩耗させるような硬いC4植物を食べていたのではないか、と考えられていました。これは、パラントロプス属が出現した頃に、アフリカ東部の生態系がC3植物からC4植物へと移行していったことや、炭素13同位体比の分析からも支持されていました。しかし、歯の微小摩耗パターンの分析では、パラントロプス属が硬いC4植物を常食していた証拠は得られていませんでした。

 この研究は、エチオピア・ケニア・タンザニアというアフリカ東部の各遺跡からパラントロプス属や初期ホモ属の167点の化石標本を集め、頬側の歯の微小摩耗痕を分析しました。その結果、パラントロプス属の歯の頬側のエナメル表面の摩耗痕の密度は低く、初期ホモ属である(アウストラロピテクス属に分類する見解もあります)ハビリス(Homo habilis)のそれと類似しており、エルガスターとは明確に異なることが明らかになりました。一方、エルガスターの歯の方は、歯を摩耗させるような硬い食べ物を広範な種類にわたって消費していた痕跡が見られました。

 これらの観察結果は、パラントロプス属が以前の推定よりも柔らかな食べ物を消費していたことを示唆する一方で、エルガスターの方は、じゅうらい想定されていた肉食の証拠が見られず、歯を摩耗させるような硬い食べ物を広範に消費していたことを窺わせます。この研究は、パラントロプス属が、歯を摩耗させることが少なくてもっと柔らかいC4植物を食べていたとすると、歯の微小摩耗痕と同位体の分析が一致するかもしれない、と指摘しています。

 ボイセイが硬い食べ物だけではなく果物も食していた可能性は以前から指摘されており(関連記事)、この研究で改めて、パラントロプス属の食性が硬い食べ物に特化していたわけではなさそうだ、ということが示されたと思います。高度に派生した形態が特化した食性を反映している必要はないわけで、形態から食性も含めて行動を単純化して推測することの危険性を再認識させられます。初期ホモ属についての分析も興味深く、肉食がホモ属の脳の巨大化を可能にした、とも言われていますが、そうした見解も検証を積み重ねていく必要があるのでしょう。


参考文献:
Martínez LM, Estebaranz-Sánchez F, Galbany J, Pérez-Pérez A (2016) Testing Dietary Hypotheses of East African Hominines Using Buccal Dental Microwear Data. PLoS ONE 11(11): e0165447.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0165447

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