縄文時代の妊娠・出産回数の地域的違い

 これは11月19日分の記事として掲載しておきます。2016年11月16日付読売新聞の朝刊で、縄文時代の妊娠・出産回数の地域的違いに関する研究が取り上げられました。これは、日本大松戸歯学部の五十嵐由里子・専任講師の調査によるもので、まだ予備的段階とのことです。この研究で調査対象となった人骨は、頭蓋・骨盤などから女性と確認できた208体のうち、骨の状態などを考慮して選ばれた、おおむね20歳以上と推定される190体です。その内訳は、北海道では伊達市の黄金貝塚などの12体、岩手県では一関市の蝦島貝塚の27体、福島県では新地町の三貫地貝塚の43体、愛知県田原市では吉胡貝塚の54体および伊川津貝塚の25体、岡山県では津雲貝塚の29体です。

 この研究では、骨盤を構成する仙骨と寛骨の間接面の耳状面にできる妊娠・出産痕の有無や強弱が調べられました。妊娠中や出産直後の女性はホルモンの影響で骨盤の靭帯が肥大し、出産時に壊れた軟骨の破片が嚢胞に吸収されます。その結果、肥大した靭帯や軟骨を吸収した嚢胞が寛骨に押しつけられ、耳状面に妊娠・出産痕と呼ばれる窪みや溝が刻まれます。妊娠・出産痕は妊娠・出産回数が増えると強く現れます。妊娠・出産痕は、北海道・岩手では全個体で確認されましたが、その他の地域では9割程度でした。

 また、妊娠・出産痕の状態を強弱に二分して調べたところ、最も強い割合は北海道の6割で、岩手県と福島県が約5割、愛知県は2割前後、岡山県は約1割と、北から南へ行くほど低くなりました。五十嵐氏は、北海道の縄文人は集団の安定的存続のために他地域より多産である必要があったのではないか、と推測しています。現代では、遊動的な狩猟民の出産回数が少ないことから、定住により出産回数が増えた可能性が指摘されています。また、女性は体内の脂肪の不足や授乳により排卵が起きにくくなるので、栄養状態が悪かったり、離乳食がなくて母乳を与え続けたりするような場合に妊娠・出産回数が減ることから、北海道では高タンパク質で脂肪分の多い海獣類の消費により妊娠・出産回数が多かったのではないか、と推測されています。

 歯や骨の状態からの年齢推定の結果、岩手県や福島県では若年者が多く、岡山県では高齢者がいたことも確認されています。そこから、人口を維持するため、北海道や東北地方では多産戦略が、(比較的)長寿の岡山県では出産回数を少なくする戦略が採用され、地域によって人口構造が異なっていた可能性がある、と指摘されています。ひじょうに興味深い研究ですが、報道では各人骨の年代が不明なので、地域とともに、年代による差もあるのではないか、とも思います。

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