古代型ホモ属との交雑により新たな環境に適応した現生人類

 これは11月13日分の記事として掲載しておきます。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のデニソワ人(Denisovan)といった古代型ホモ属との交雑による、現生人類(Homo sapiens)の適応度への影響に関する研究(Gittelman et al., 2016)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。現生人類とネアンデルタール人やデニソワ人との交雑はすでに多くの研究で確認されており、現代人に見られる、ネアンデルタール人とデニソワ人に由来する免疫に関連する遺伝子が、出アフリカ後の現生人類にとって、新たな環境に適応するのに有益だったのではないか、との見解も提示されています(関連記事)。

 この研究は、現代人に高頻度で見られる古代型ホモ属由来の遺伝子座126領域を特定しました。この研究で対象となった現代人は、東アジア系・ヨーロッパ系・南アジア系がそれぞれ約500人、メラネシア系(この研究ではインドネシアも含みます)が27人です。通常、現代人に見られる古代型ホモ属由来のDNA配列の頻度は5%未満ですが、この126領域では、65%に達する場合もあります。これら126領域のうち107領域は、1集団でのみ高頻度です。その1集団にのみ高頻度な領域の割合は、ヨーロッパでは66%、南アジアでは58%なのにたいして、東アジアでは84%、メラネシアでは86%です。これは、(ヨーロッパ系や南アジア系現代人の祖先集団と分岐した後の)東アジア系やメラネシア系現代人の祖先集団と古代型ホモ属との追加の交雑を認める見解と一致する、と指摘されています。

 これら126領域のうち、7領域(OCA2とBNC2を含みます)は肌の色素形成に役割を果たすことが知られており、31領域(OAS1/2/3、TLR1/6/10、TNFAIP3など)は免疫に関連しています。この研究は、こうした古代型ホモ属由来の変異は、出アフリカ後の現生人類が新たな環境に急速に適応するのに有利だったために、現代人において高頻度で継承されているのではないか、と指摘しています。ただ、現時点では、現代人のゲノムデータが地理的に偏っていることも指摘されており、今後の目標として、さらに多様な地域からデータを集めることが挙げられています。


参考文献:
Gittelman RM. et al.(2016): Archaic Hominin Admixture Facilitated Adaptation to Out-of-Africa Environments. Current Biology, 26, 24, 3375–3382.
http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2016.10.041

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