現生人類と古代型ホモ属との交雑の見直し
これは10月26日分の記事として掲載しておきます。現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のデニソワ人(Denisovan)といった他系統のホモ属(古代型ホモ属)との交雑を見直した研究(Bohlender et al., 2016)が報道されました。この研究は今月(2016年10月)18日~22日にかけて、カナダのブリティッシュコロンビア州のバンクーバー市で開催されたアメリカ人類遺伝学会の年次総会で報告されており、まだ論文としては刊行されていません。この研究の要約は、PDFファイルで読めます(P37)。
非アフリカ系現代人は全員、ネアンデルタール人由来のゲノム領域を有することが確認されています。また、一部の非アフリカ系現代人は、デニソワ人由来のゲノム領域を有することが確認されています。一方、(サハラ砂漠以南の)アフリカ系現代人には、ネアンデルタール人やデニソワ人由来のゲノム領域が確認されていないか、確認されていたとしても、たいへん低い割合となっています。出アフリカ後にユーラシアからアフリカに「戻った」現生人類集団も一部いますし(関連記事)、イスラーム勢力や帝国主義の時代のヨーロッパ勢力のアフリカへの侵出もあるので、多くのアフリカ系現代人は、わずかながらネアンデルタール人やデニソワ人由来のゲノム領域を有すると思われます。こうしたことから、(非アフリカ系現代人の主要な遺伝子源となった)出アフリカ後の現生人類集団が、ネアンデルタール人やデニソワ人と交雑した、と考えられています。
一方で、アフリカにおいても、現生人類とネアンデルタール人やデニソワ人の系統ではない古代型ホモ属との交雑の可能性が提示されています(関連記事)。この研究は、これまでの研究成果とゲノム解析の結果を見直し、アフリカにおける現生人類と古代型ホモ属との交雑の可能性があまり考慮されていなかったため、現生人類と古代型ホモ属との交雑はじゅうらいの推定よりも複雑なものだった可能性が高い、と指摘しています。
この研究でのそうした見直しでは、いくつかの注目すべき修正点があります。まず、非アフリカ系現代人におけるネアンデルタール人やデニソワ人由来のゲノム領域の割合がじゅうらいの推定よりも低くなるということと(とくにメラネシア系現代人において)、ヨーロッパ系現代人よりも東アジア系現代人の方が、ネアンデルタール人由来のゲノム領域の割合は高いと推定されていたものの、じゅうらいの推定よりも違いは小さいだろう、ということです。
古代型ホモ属と現生人類系統との分岐年代は440000±300年前頃と推定されました。これは、たとえば現生人類の祖先系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統とがおそらく75万~55万年前頃までには分岐した、とする以前の推定(関連記事)よりも新しくなります。ただ、その推定ではネアンデルタール人とデニソワ人が遅くとも43万年前頃には分岐していたことになり、43万年前頃の人骨から直接DNAを解析しているだけに、古代型ホモ属と現生人類系統との分岐年代として、44万年前頃というこの研究の推定年代は新しく見積もりすぎているのではないか、とも思います。
アフリカ系現代人に関しては、サン人・ネアンデルタール人・デニソワ人の間の共有された派生的対立遺伝子に基づき、まだ特定されていない系統の古代型ホモ属との交雑の可能性が指摘されています。この推定上の存在である未知の古代型ホモ属は、現生人類よりもネアンデルタール人とデニソワ人に近い系統だろう、と推測されています。この研究は、現生人類と古代型ホモ属との交雑について、たいへん興味深い見直しを提示しています。この研究が直ちに有力説として認められるわけではないでしょうが、今後の研究の進展に寄与しそうだという意味で、大いに注目されます。
参考文献:
Bohlender R. et al.(2016): A complex history of archaic admixture in modern humans. ASHG 2016 Annual Meeting.
非アフリカ系現代人は全員、ネアンデルタール人由来のゲノム領域を有することが確認されています。また、一部の非アフリカ系現代人は、デニソワ人由来のゲノム領域を有することが確認されています。一方、(サハラ砂漠以南の)アフリカ系現代人には、ネアンデルタール人やデニソワ人由来のゲノム領域が確認されていないか、確認されていたとしても、たいへん低い割合となっています。出アフリカ後にユーラシアからアフリカに「戻った」現生人類集団も一部いますし(関連記事)、イスラーム勢力や帝国主義の時代のヨーロッパ勢力のアフリカへの侵出もあるので、多くのアフリカ系現代人は、わずかながらネアンデルタール人やデニソワ人由来のゲノム領域を有すると思われます。こうしたことから、(非アフリカ系現代人の主要な遺伝子源となった)出アフリカ後の現生人類集団が、ネアンデルタール人やデニソワ人と交雑した、と考えられています。
一方で、アフリカにおいても、現生人類とネアンデルタール人やデニソワ人の系統ではない古代型ホモ属との交雑の可能性が提示されています(関連記事)。この研究は、これまでの研究成果とゲノム解析の結果を見直し、アフリカにおける現生人類と古代型ホモ属との交雑の可能性があまり考慮されていなかったため、現生人類と古代型ホモ属との交雑はじゅうらいの推定よりも複雑なものだった可能性が高い、と指摘しています。
この研究でのそうした見直しでは、いくつかの注目すべき修正点があります。まず、非アフリカ系現代人におけるネアンデルタール人やデニソワ人由来のゲノム領域の割合がじゅうらいの推定よりも低くなるということと(とくにメラネシア系現代人において)、ヨーロッパ系現代人よりも東アジア系現代人の方が、ネアンデルタール人由来のゲノム領域の割合は高いと推定されていたものの、じゅうらいの推定よりも違いは小さいだろう、ということです。
古代型ホモ属と現生人類系統との分岐年代は440000±300年前頃と推定されました。これは、たとえば現生人類の祖先系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統とがおそらく75万~55万年前頃までには分岐した、とする以前の推定(関連記事)よりも新しくなります。ただ、その推定ではネアンデルタール人とデニソワ人が遅くとも43万年前頃には分岐していたことになり、43万年前頃の人骨から直接DNAを解析しているだけに、古代型ホモ属と現生人類系統との分岐年代として、44万年前頃というこの研究の推定年代は新しく見積もりすぎているのではないか、とも思います。
アフリカ系現代人に関しては、サン人・ネアンデルタール人・デニソワ人の間の共有された派生的対立遺伝子に基づき、まだ特定されていない系統の古代型ホモ属との交雑の可能性が指摘されています。この推定上の存在である未知の古代型ホモ属は、現生人類よりもネアンデルタール人とデニソワ人に近い系統だろう、と推測されています。この研究は、現生人類と古代型ホモ属との交雑について、たいへん興味深い見直しを提示しています。この研究が直ちに有力説として認められるわけではないでしょうが、今後の研究の進展に寄与しそうだという意味で、大いに注目されます。
参考文献:
Bohlender R. et al.(2016): A complex history of archaic admixture in modern humans. ASHG 2016 Annual Meeting.
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