ネアンデルタール人との交雑に起因する現代人の免疫反応の違い

 これは10月22日分の記事として掲載しておきます。現代人の免疫反応の違いに関する二つの研究が報道されました。一方の研究(Nédélec et al., 2016)は、80人のアフリカ系アメリカ人と95人のヨーロッパ系アメリカ人の血液標本を集め、個々の標本から、マクロファージと呼ばれる免疫細胞のタイプを分離し、2タイプの細菌に感染させ、どのように反応するか、観察しました。その結果、アフリカ系のマクロファージは、ヨーロッパ系の3倍速く細菌を殺し、強い炎症性反応を示しました。免疫反応に違いをもたらした配列では、ヨーロッパ系とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)とが類似しており、アフリカ系はそれらとは異なっていました。

 もう一方の研究(Quach et al., 2016)は、ベルギーに住む200人から標本を集めました。そのうち半分はアフリカ系で、残りの半分はヨーロッパ系です。この研究は白血球の一種である単核球を培養し、細菌とウイルスに感染させました。その反応の多くでアフリカ系とヨーロッパ系の違いが見られ、ヨーロッパ系のネアンデルタール人と類似した配列が、そうした免疫反応の変化に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。この違いは、ウイルスの感染において顕著でした。感染による淘汰圧の結果、免疫系は急速に進化するかもしれない、と指摘されています。

 アフリカ起源の現生人類(Homo sapiens)がユーラシアのような未知の土地に進出したさい、ネアンデルタール人のような他系統の先住人類との交雑により獲得した免疫関連の遺伝子が、適応度を向上させたこともある、と考えられます。その土地に長く居住し適応してきた人類との交雑は、短期間での適応度向上に役立ったのではないか、というわけです。現生人類の世界各地への拡散の要因として、その高い技術水準と複雑な社会構造がよく挙げられるように思いますが、免疫系に限らず、他系統の人類との交雑により獲得した遺伝子も一因として考えられるでしょう。もっとも、適応度と遺伝子の関係は環境により異なってくるので、ある時期には適応度を上げるのに有利か適応度には中立だったネアンデルタール人由来の遺伝子が、現在では適応度を下げる方向に作用することもあり得ます(関連記事)。


参考文献:
Nédélec Y. et al.(2016): Genetic Ancestry and Natural Selection Drive Population Differences in Immune Responses to Pathogens. Cell, 167, 3, 657–669.
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.09.025

Quach H. et al.(2016): Genetic Adaptation and Neandertal Admixture Shaped the Immune System of Human Populations. Cell, 167, 3, 643–656.
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.09.024

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