ヒゲオマキザルが「作った」石器と類似した剥片(追記有)

 これは10月21日分の記事として掲載しておきます。ブラジルに存在する野生のヒゲオマキザル(Sapajus libidinosus)が「作った」石の剥片に関する研究(Proffitt et al., 2016)が報道されました。『ネイチャー』のサイトには解説記事が掲載されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究は、ヒゲオマキザルが意図的に石を壊し、断片化されて端の鋭い剥片と石核を意図せず繰り返し「作り」、その剥片と石核が意図的に生産された人類の石器に見られる特徴と形態を有している、ということを明らかにしました。ヒゲオマキザルは割った石を嘗めますが、その理由はまだ明らかになっていません。その理由として、石を粉末化して必須元素である珪素を摂取するためか、何らかの薬効があるためではないか、と推測されています。

 この研究の意義は大きいというか、重要な問題を提起することになりました。じゅうらいの基準で考古学的に明白とされる剥片と石核は、もはや人類系統に特有と断定できなくなったわけです。この研究は、人類の製作した初期の石器と、ヒゲオマキザルの「作った」剥片や石核のような、人間ではない霊長類による意図的ではない剥片・石核とを区別する基準の改良の必要性を提言しています。とくに初期の石器に関しては、人間ではない霊長類による意図的ではない剥片・石核との区別が困難ではないか、と懸念されています。そのため、現時点で最古の石器とされる330万年前頃の石器(関連記事)も含む最初期の石器のなかには、人類の所産ではないものもあるかもしれない、と何人かの研究者たちは疑問を呈しています。

 石器も含めて道具の製作は、長らくホモ属の指標とされてきましたが、近年では、上述した330万年前頃の石器の報告や、最古の石器が明らかなホモ属の出現よりもさかのぼることなどから、石器の製作はホモ属に限定されない、との見解も提示されるようになってきました。もっとも、ホモ属(的特徴)の出現時期もじゅうらいよりさかのぼる、との見解も提示されていますが(関連記事)。この研究は、とくに初期の石器群の研究に関して今後大きな混乱をもたらすことになるかもしれませんが、石器研究の緻密化・進展をもたらすことになるかもしれず、その意味でも大いに注目されます。


参考文献:
Proffitt T. et al.(2016): Wild monkeys flake stone tools. Nature, 539, 7627, 85–88.
http://dx.doi.org/10.1038/nature20112


追記(2016年11月3日)
 論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



考古学:野生のサルによる剥片石器の作製

考古学:サルが作った剥片石器

 ブラジルには、大量の石片を集積した遺跡が複数存在する。こうした集積や石片は、アフリカで300万年前のものとして発見されていたならば、初期の石器文化の証拠と見なされていたかもしれない。しかし今回、こうしたブラジルの石片集積については、それらの「製作者」が石片を実際に作製しているところが見つかった。ブラジルのカピバラ山地国立公園で、野生のヒゲオマキザル(別名クロスジオマキザル;Sapajus libidinosus)が意図的に石を打ち割っているのが観察されたのである。このサルがなぜ石を割るのかは不明だが、割った石をなめたりそのにおいを嗅いだりすることがあるため、石英の粉末または地衣類を摂取しているのではないかと推測される。一方、割った石の鋭い縁を使って何かを切ったりかき落としたりする様子は見られなかった。このサルは、これほど頻繁に石と関わる唯一の非ヒト族霊長類であり、また、このサルによる加工石の集積が他の地域で初期のヒト族の活動を表すと考えられているものに似ているという事実は、旧石器時代の人類の記録の解釈に有益な情報をもたらす。

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  • 3000年前から石器を製作していたヒゲオマキザル

    Excerpt: ヒゲオマキザル(Sapajus libidinosus)の石器製作が3000年前までさかのぼることを報告した研究(Falótico et al., 2019)が公表されました。この研究はオン.. Weblog: 雑記帳 racked: 2019-06-25 03:47