ネアンデルタール人と現生人類との耳小骨の形態および聴力の比較
ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)との耳小骨の形態および聴力を比較した研究(Stoessel et al., 2016)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。中耳小骨(槌骨・砧骨・鐙骨)は聴力において重要な役割を果たしますが、ひじょうに小さい骨格なので、化石哺乳類では稀にしか発見されません。それが、人類の耳小骨の形態や聴力についての研究を妨げていました。この研究は、フランス・ドイツ・クロアチア・イスラエルの遺跡から発見された14個体分のネアンデルタール人の中耳小骨と、現生人類や、チンパンジー・ゴリラという現代人と最も近縁な現生種であるアフリカ類人猿や、パラントロプス=ロブストス(Paranthropus robustus)およびアウストラロピテクス=アフリカヌス(Australopithecus africanus)といった初期人類の中耳小骨とを、マイクロトモグラフィースキャンと3D幾何学形態測定を用いて比較しました。
その結果、鐙骨に関しては以前から指摘されていましたが(関連記事)、槌骨・砧骨でもネアンデルタール人と現生人類の形態には大きな違いがあり、現生人類とチンパンジー・ゴリラの違いと比較して、砧骨では同等の、槌骨・鐙骨ではそれ以上の違いがある、と明らかになりました。また、現生人類もネアンデルタール人も、中耳小骨の形態に関して、推定された祖先よりも派生的ではあるものの、現生人類よりもネアンデルタール人の方がさらに派生的である、とも指摘されています。こうした違いは、ネアンデルタール人の系統と現生人類の系統とがそれぞれ独自に脳容量を増大させてきた結果で、側頭骨の進化の違いを反映しているのではないか、と推測されています。
チンパンジー・ゴリラという現代人と最も近縁な現生種であるアフリカ類人猿や、ロブストスやアフリカヌスといった初期人類は、中耳小骨の形態や聴力が現生人類とは異なる、という見解がすでに提示されています(関連記事)。しかし、ネアンデルタール人と現生人類に関しては、仮想復元による推定から、中耳小骨の形態が大きく異なるにも関わらず、その聴力はほぼ同じだ、と推測されました。そのため、ネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先の時点で、すでに現代人のような聴力が獲得されており、ネアンデルタール人と現生人類それぞれの系統で脳容量の増大にともなう中耳小骨の形態の違いが生じたものの、最終共通祖先の時点での聴力は保持されたのではないか、との見解が提示されています。この研究で得られた知見は、話し言葉の進化の研究の基礎になる、と指摘されています。
さまざまな部位の豊富な人骨が一括して発見されている中期更新世の遺跡として有名な、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)の人骨群に関しても、現生人類と同等の聴力を有していた可能性が以前より指摘されていました(関連記事)。SH人骨群は、その形態と遺伝的特徴から、ネアンデルタール人の直接的な祖先系統か、もしくはその近縁系統だと推測されています(関連記事)。この研究により、SH人骨群と現生人類の聴力が同等だった可能性がさらに高まった、と言えるでしょう。もちろん、聴力が現生人類とほぼ同じだとしても、それが現生人類と同様の話し言葉の能力を保証するわけではなく、おそらくはネアンデルタール人と現生人類との間には、言語能力で何らかの違いがあった可能性は高いでしょう。現生人類のような言語能力に関わるさまざまな形質は、短期間で一括して出現したのではなく、少なくともそのうちのいくつかは、異なる年代に出現した可能性が高いように思われます。
参考文献:
Stoessel A. et al.(2016): Morphology and function of Neandertal and modern human ear ossicles. PNAS, 113, 41, 11489–11494.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1605881113
その結果、鐙骨に関しては以前から指摘されていましたが(関連記事)、槌骨・砧骨でもネアンデルタール人と現生人類の形態には大きな違いがあり、現生人類とチンパンジー・ゴリラの違いと比較して、砧骨では同等の、槌骨・鐙骨ではそれ以上の違いがある、と明らかになりました。また、現生人類もネアンデルタール人も、中耳小骨の形態に関して、推定された祖先よりも派生的ではあるものの、現生人類よりもネアンデルタール人の方がさらに派生的である、とも指摘されています。こうした違いは、ネアンデルタール人の系統と現生人類の系統とがそれぞれ独自に脳容量を増大させてきた結果で、側頭骨の進化の違いを反映しているのではないか、と推測されています。
チンパンジー・ゴリラという現代人と最も近縁な現生種であるアフリカ類人猿や、ロブストスやアフリカヌスといった初期人類は、中耳小骨の形態や聴力が現生人類とは異なる、という見解がすでに提示されています(関連記事)。しかし、ネアンデルタール人と現生人類に関しては、仮想復元による推定から、中耳小骨の形態が大きく異なるにも関わらず、その聴力はほぼ同じだ、と推測されました。そのため、ネアンデルタール人と現生人類の最終共通祖先の時点で、すでに現代人のような聴力が獲得されており、ネアンデルタール人と現生人類それぞれの系統で脳容量の増大にともなう中耳小骨の形態の違いが生じたものの、最終共通祖先の時点での聴力は保持されたのではないか、との見解が提示されています。この研究で得られた知見は、話し言葉の進化の研究の基礎になる、と指摘されています。
さまざまな部位の豊富な人骨が一括して発見されている中期更新世の遺跡として有名な、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)の人骨群に関しても、現生人類と同等の聴力を有していた可能性が以前より指摘されていました(関連記事)。SH人骨群は、その形態と遺伝的特徴から、ネアンデルタール人の直接的な祖先系統か、もしくはその近縁系統だと推測されています(関連記事)。この研究により、SH人骨群と現生人類の聴力が同等だった可能性がさらに高まった、と言えるでしょう。もちろん、聴力が現生人類とほぼ同じだとしても、それが現生人類と同様の話し言葉の能力を保証するわけではなく、おそらくはネアンデルタール人と現生人類との間には、言語能力で何らかの違いがあった可能性は高いでしょう。現生人類のような言語能力に関わるさまざまな形質は、短期間で一括して出現したのではなく、少なくともそのうちのいくつかは、異なる年代に出現した可能性が高いように思われます。
参考文献:
Stoessel A. et al.(2016): Morphology and function of Neandertal and modern human ear ossicles. PNAS, 113, 41, 11489–11494.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1605881113
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