西アジアの中期更新世の人類の歯

 これは8月7日分の記事として掲載しておきます。西アジアの中期更新世の人類の歯についての研究(Hershkovitz et al., 2011)が報道されました。この研究も、取り上げるのがかなり遅れてしまったというか、メモ帳を整理していて、5年近く前に取り上げようと思って記録しておいたものの、不覚にも最近まで失念していたことに気づきました。今更ではありますが、せっかく気づいたので、取り上げることにします。

 この研究では、イスラエルのケセム洞窟(Qesem Cave)で発見された中期更新世の永久歯と乳歯が分析・比較されました。この歯の年代は40万~20万年前頃で、後期下部旧石器時代のアシュールヤブルディアンのものとされています。3本の下顎永久歯は下層で近接した状態で発見されました。歯冠の測定から、かなりの程度歯が摩耗していたのではないか、と推測されていますが、歯根は長く頑丈です。上層で発見された、3本の孤立した上顎永久歯と2本の孤立した乳歯はもっと大きく、早期現生人類(Homo sapiens)として知られるスフール人・カフゼー人の歯と類似した幾つかの祖先形質の痕跡が見られます。

 このケセム洞窟の歯には、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の特徴一式が見られるわけではありませんが、ネアンデルタール人の系統との幾つかの類似性も見られます。しかしこの研究では、総合的に見ると、ケセム洞窟の歯はスフール人・カフゼー人の歯にもっと似ている、と指摘されています。ただ、そうした類似の多くは祖先形質の特徴を反映しているのではないか、とも指摘されています。やはり8本の歯だけでは、なかなか見通しを立てるのも難しいようです。


参考文献:
Hershkovitz I. et al.(2011): Middle pleistocene dental remains from Qesem Cave (Israel). American Journal of Physical Anthropology, 144, 4, 575–592.
http://dx.doi.org/10.1002/ajpa.21446

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