アメリカ大陸最初の人類の移住経路(追記有)
これは8月12日分の記事として掲載しておきます。アメリカ大陸最初の人類の移住経路に関する研究(Pedersen et al., 2016)が報道されました。『ネイチャー』のサイトには解説記事が掲載されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。アメリカ大陸への人類最初の移住については、激しい議論が続いてきました(関連記事)。20世紀後半に有力だとされたのは、アメリカ大陸最初の人類はクローヴィス(Clovis)文化の担い手であり、ベーリンジア(ベーリング陸橋)から15000~14000年前頃までに北アメリカ大陸で開けた無氷回廊を通ってアメリカ大陸へと進出した、というクローヴィス最古説です。無氷回廊が開けるまで、ベーリンジアから北アメリカ大陸に陸路で拡散することはできなかったため、無氷回廊が開けて初めて、人類はアメリカ大陸に進出できた、というわけです。近年では、北アメリカ大陸や南アメリカ大陸でクローヴィス文化よりも前の人類の痕跡が複数報告されており、クローヴィス最古説はほぼ否定された、と言ってよい状況でしょう。また、アメリカ大陸への人類の進出経路も、太平洋沿岸だったのではないか、との見解が有力になりつつあります。
この研究は、無氷回廊の湖の堆積物の花粉・化石などから、放射性炭素年代(この研究では較正年代)やDNAの解析結果を得て、アメリカ大陸最初の人類が無氷回廊を経由して進出してきたのか、検証しています。その結果、無氷回廊で人類が生活できるような生態系になったのは12600年前頃だと推測されています。無氷回廊では、12600年前頃に植生が草原地帯へと変わり、バイソンやマンモスなどが移住してきます。無氷回廊は11500年前頃には現在の亜寒帯森林に似た生態系となり始め、ヘラジカが移住してきます。無氷回廊はその後、10000年前頃には現在のような環境となります。
12600年前頃以降の無氷回廊は、狩猟採集民が生活できるだけの豊かな生態系でしたが、それよりも前には、人類の生存は困難だったと考えられます。この研究はそうした理由から、クローヴィス文化の担い手も、クローヴィス文化よりも前のアメリカ大陸の人類集団も、無氷回廊でアメリカ大陸へと進出してきたのではなく、太平洋沿岸経路で拡散したのではないか、との見解を提示しています。これは、近年の研究動向と整合的と言えるでしょう。しかし、アメリカ大陸最初期の人類の太平洋沿岸経路での拡散の証拠は、現代ではその多くが海面下にあると考えられるので、発見は容易ではない、と指摘されています。また、クローヴィス文化よりも後の人類集団は、無氷回廊経由でアメリカ大陸へと拡散した可能性も指摘されています。
参考文献:
Pedersen MW. et al.(2016): Postglacial viability and colonization in North America’s ice-free corridor. Nature, 537, 7618, 45–49.
http://dx.doi.org/10.1038/nature19085
追記(2016年9月2日)
本論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。
環境科学:後氷期の北米の無氷回廊における生物の生存可能性と定着
環境科学:アメリカ大陸への人類移動は海沿いの経路で
最終氷期の大半の期間は、シベリアから現在のベーリング海峡にまたがる「ベーリンギア」と呼ばれる陸橋を経た北米への人類の移動が、大陸氷床によって妨げられていた。ある時点で、コルディエラ氷床とローレンタイド氷床の間に道が開けたが、この長さ1500 kmの無氷回廊はあまりにも寒冷で、人類の移動経路として機能することはなかったと考えられている。今回E Willerslevたちは、かつてこの無氷回廊だった場所の湖底堆積物コアを採取し、それに基づいた一連の環境構築結果を明らかにした。そのデータから見ると、この回廊は、氷床以南のアメリカ大陸に人類が到達したことが分かっている時期より後になっても、人類の生存に適さない場所であったと考えられる。このことは、人類が海沿いの経路で北米に移動したことを意味しており、その経路は後の海水準上昇で現在は海面下に沈んでいる。
この研究は、無氷回廊の湖の堆積物の花粉・化石などから、放射性炭素年代(この研究では較正年代)やDNAの解析結果を得て、アメリカ大陸最初の人類が無氷回廊を経由して進出してきたのか、検証しています。その結果、無氷回廊で人類が生活できるような生態系になったのは12600年前頃だと推測されています。無氷回廊では、12600年前頃に植生が草原地帯へと変わり、バイソンやマンモスなどが移住してきます。無氷回廊は11500年前頃には現在の亜寒帯森林に似た生態系となり始め、ヘラジカが移住してきます。無氷回廊はその後、10000年前頃には現在のような環境となります。
12600年前頃以降の無氷回廊は、狩猟採集民が生活できるだけの豊かな生態系でしたが、それよりも前には、人類の生存は困難だったと考えられます。この研究はそうした理由から、クローヴィス文化の担い手も、クローヴィス文化よりも前のアメリカ大陸の人類集団も、無氷回廊でアメリカ大陸へと進出してきたのではなく、太平洋沿岸経路で拡散したのではないか、との見解を提示しています。これは、近年の研究動向と整合的と言えるでしょう。しかし、アメリカ大陸最初期の人類の太平洋沿岸経路での拡散の証拠は、現代ではその多くが海面下にあると考えられるので、発見は容易ではない、と指摘されています。また、クローヴィス文化よりも後の人類集団は、無氷回廊経由でアメリカ大陸へと拡散した可能性も指摘されています。
参考文献:
Pedersen MW. et al.(2016): Postglacial viability and colonization in North America’s ice-free corridor. Nature, 537, 7618, 45–49.
http://dx.doi.org/10.1038/nature19085
追記(2016年9月2日)
本論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。
環境科学:後氷期の北米の無氷回廊における生物の生存可能性と定着
環境科学:アメリカ大陸への人類移動は海沿いの経路で
最終氷期の大半の期間は、シベリアから現在のベーリング海峡にまたがる「ベーリンギア」と呼ばれる陸橋を経た北米への人類の移動が、大陸氷床によって妨げられていた。ある時点で、コルディエラ氷床とローレンタイド氷床の間に道が開けたが、この長さ1500 kmの無氷回廊はあまりにも寒冷で、人類の移動経路として機能することはなかったと考えられている。今回E Willerslevたちは、かつてこの無氷回廊だった場所の湖底堆積物コアを採取し、それに基づいた一連の環境構築結果を明らかにした。そのデータから見ると、この回廊は、氷床以南のアメリカ大陸に人類が到達したことが分かっている時期より後になっても、人類の生存に適さない場所であったと考えられる。このことは、人類が海沿いの経路で北米に移動したことを意味しており、その経路は後の海水準上昇で現在は海面下に沈んでいる。
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