中期石器時代の気候変動と初期現生人類の革新的行動の関係

 これは7月28日分の記事として掲載しておきます。中期石器時代の気候変動と現生人類(Homo sapiens)の革新的行動の関係についての研究(Roberts et al., 2016)が報道されました。本論文が調査対象としたのは、南アフリカ共和国の南沿岸にあるブロンボス洞窟(Blombos Cave)とクリプドリフトシェルター(Klipdrift Shelter)です。ブロンボスでは98000~73000年前頃、クリプドリフトでは72000~59000年前頃の中期石器時代の痕跡が確認されています。文化的には、ブロンボスでは77000~73000年前頃のスティルベイ(Still Bay)伝統が、クリプドリフトでは65000~59000年前頃のハウィソンズプールト(Howieson's Poort)伝統が確認されています。スティルベイ伝統もハウィソンズプールト伝統も、中期石器時代における革新的要素の見られる文化として知られています。

 本論文は、ブロンボスとクリプドリフトの中期石器時代のダチョウの卵殻の断片・動物遺骸・貝類の炭素および酸素の安定同位体分析に基づき、中期石器時代のアフリカ南部における高解像度の環境変動の記録を提示しています。その結果、ブロンボス・クリプドリフト両遺跡ともに、中期石器時代の顕著な気候変動が確認されました。大気・海水の温度や降水量や雨季が大きく変わることにより、生態系も顕著に変わったのではないか、と推測されています。

 こうした気候変動およびそれに伴う生態系も含む環境変化は、人類の文化的・技術的革新と関連づけられてきました。不安定な気候に対応するために革新が生じたのではないか、というわけです。一方で、気候が変動するなか、より安定的な気候の待避所的な地域に移動し、そこで実験的な革新が試行されたのではないか、との見解も提示されています。いずれにしても、気候変動が人類の革新的行動の要因になったのではないか、というわけです。

 本論文は、中期石器時代のアフリカ南部の気候変動およびそれに伴う生態系も含む環境変化により、食性の変化など初期現生人類の生存戦略が変わった可能性を提示しています。とくにブロンボスにおいて、海水準の変化(海岸との距離)による影響が想定されています。こうした生存戦略の変化は現生人類の柔軟性を示している、と指摘されています。しかし、骨器やオーカーの生産・使用と個人的装飾などといった文化的・技術的革新の始まりと、気候変動との直接的関連を示す証拠は得られませんでした。

 そのため本論文は、アフリカ南部の中期石器時代における文化的・技術的革新の要因として、気候変動以外を想定するのがより適切かもしれない、と指摘しています。それはたとえば、認知能力の変化や人口変動や長距離間の人的交流などです。しかし、そうした仮説もそれぞれ問題を抱えており、アフリカ南部の中期石器時代における文化的・技術的革新の要因については、まだ確定していません。アフリカ南部や東部ではそれぞれ環境が異なっていたでしょうから、文化的・技術的革新の要因も、共通しているところはあるとしても、異なっていたところもある、という可能性を想定すべきなのでしょう。


参考文献:
Roberts P, Henshilwood CS, van Niekerk KL, Keene P, Gledhill A, Reynard J, et al. (2016) Climate, Environment and Early Human Innovation: Stable Isotope and Faunal Proxy Evidence from Archaeological Sites (98-59ka) in the Southern Cape, South Africa. PLoS ONE 11(7): e0157408.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0157408

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