リアンブア洞窟における更新世の現生人類の痕跡
インドネシア領フローレス島のリアンブア(Liang Bua)洞窟遺跡の堆積層を再検証した研究(Morley et al., 2017)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究は、リアンブア洞窟の更新世の堆積層の形成過程や続成過程を顕微鏡水準の精密さで再検証しています。この微細構造的分析により、年代も含めて人類の活動が見直されることになり、東南アジアからサフルランド(更新世の寒冷期にはオーストラリア大陸・ニューギニア島・タスマニア島は陸続きでした)の後期更新世における人類史の「空白」の一端が埋められそうだ、ということで注目されています。
フローレス島のリアンブア洞窟では、人骨・石器といった後期更新世の人類の痕跡が確認されています。この人骨群は、ホモ属の新種フロレシエンシス(Homo floresiensis)と分類されました。フロレシエンシスがどの人類系統から分岐したのか、まだ確定したとは言い難い状況で、同じくホモ属のエレクトス(Homo erectus)から進化したという見解と、より祖先的なホモ属であるハビリス(Homo habilis)のような人類系統か、さらに祖先的な後期アウストラロピテクス属から進化した、という見解とに大別されます。
フロレシエンシスの下限年代は、当初17000年前頃もしくは13000~11000年前頃と推定されました。現生人類(Homo sapiens)は5万年前頃かその少し後にはオーストラリア大陸にまで進出していたと推定されているので、現生人類がフローレス島の近隣地域に侵出してから長期間、フロレシエンシスは生存していたことになります。フロレシエンシスの祖先集団がどの人類系統だったのか、という問題とともに、長期間近隣の現生人類と共存していたように思えることも、フロレシエンシスに関する大きな謎でした。
この謎に関して、最近新たな展開が見られました。フロレシエンシスの化石の年代は当初の推定である95000~12000年前頃ではなく19万~6万年前頃であり、フロレシエンシスの所産と考えられる石器の下限年代は5万年前頃である、という再検証結果が報告されました(関連記事)。これにより、現生人類がフローレス島の近隣地域に侵出した頃にフロレシエンシスが絶滅した可能性が想定されました。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と同様に、現生人類との競合によりフロレシエンシスは絶滅したかもしれない、というわけです。もちろん、現生人類とは関係なくフロレシエンシスが絶滅した可能性もじゅうぶん考えられます。
ただ、これにより、フローレス島、少なくともリアンブア洞窟においては、フロレシエンシスと完新世になって確認される現生人類との間の「空白期間」が長くなる、という問題も生じました。もちろん、単にフローレス島への現生人類の侵出が近隣地域と比較して遅れただけかもしれませんが、現生人類の拡散速度を考えると、やや不自然であるとも言えます。こうした状況で、この研究はリアンブア洞窟の複雑な堆積層の形成過程を、顕微鏡水準の精密さで再検証するとともに、炭の試料に放射性炭素年代測定法を適用しました。
その結果、調理や暖を取るためと考えられる人為的な燃焼の痕跡が、41000~24000年前に確認されました。この痕跡の特徴から、現生人類の所産である可能性が最も高い、と指摘されています。これにより、リアンブア洞窟におけるフロレシエンシスと現生人類との「空白期間」はずっと短くなる可能性が高くなりました。まだ、現生人類との競合がフロレシエンシスの絶滅要因と断定するには時期尚早ですが、今後、リアンブア洞窟に限らずフローレス島での発掘・研究が進めば、5万年前頃に近い現生人類の痕跡が発見されるかもしれず、今後の研究の進展が期待されます。
参考文献:
Morley MW. et al.(2017): Initial micromorphological results from Liang Bua, Flores (Indonesia): Site formation processes and hominin activities at the type locality of Homo floresiensis. Journal of Archaeological Science, 77, 125–142.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jas.2016.06.004
フローレス島のリアンブア洞窟では、人骨・石器といった後期更新世の人類の痕跡が確認されています。この人骨群は、ホモ属の新種フロレシエンシス(Homo floresiensis)と分類されました。フロレシエンシスがどの人類系統から分岐したのか、まだ確定したとは言い難い状況で、同じくホモ属のエレクトス(Homo erectus)から進化したという見解と、より祖先的なホモ属であるハビリス(Homo habilis)のような人類系統か、さらに祖先的な後期アウストラロピテクス属から進化した、という見解とに大別されます。
フロレシエンシスの下限年代は、当初17000年前頃もしくは13000~11000年前頃と推定されました。現生人類(Homo sapiens)は5万年前頃かその少し後にはオーストラリア大陸にまで進出していたと推定されているので、現生人類がフローレス島の近隣地域に侵出してから長期間、フロレシエンシスは生存していたことになります。フロレシエンシスの祖先集団がどの人類系統だったのか、という問題とともに、長期間近隣の現生人類と共存していたように思えることも、フロレシエンシスに関する大きな謎でした。
この謎に関して、最近新たな展開が見られました。フロレシエンシスの化石の年代は当初の推定である95000~12000年前頃ではなく19万~6万年前頃であり、フロレシエンシスの所産と考えられる石器の下限年代は5万年前頃である、という再検証結果が報告されました(関連記事)。これにより、現生人類がフローレス島の近隣地域に侵出した頃にフロレシエンシスが絶滅した可能性が想定されました。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と同様に、現生人類との競合によりフロレシエンシスは絶滅したかもしれない、というわけです。もちろん、現生人類とは関係なくフロレシエンシスが絶滅した可能性もじゅうぶん考えられます。
ただ、これにより、フローレス島、少なくともリアンブア洞窟においては、フロレシエンシスと完新世になって確認される現生人類との間の「空白期間」が長くなる、という問題も生じました。もちろん、単にフローレス島への現生人類の侵出が近隣地域と比較して遅れただけかもしれませんが、現生人類の拡散速度を考えると、やや不自然であるとも言えます。こうした状況で、この研究はリアンブア洞窟の複雑な堆積層の形成過程を、顕微鏡水準の精密さで再検証するとともに、炭の試料に放射性炭素年代測定法を適用しました。
その結果、調理や暖を取るためと考えられる人為的な燃焼の痕跡が、41000~24000年前に確認されました。この痕跡の特徴から、現生人類の所産である可能性が最も高い、と指摘されています。これにより、リアンブア洞窟におけるフロレシエンシスと現生人類との「空白期間」はずっと短くなる可能性が高くなりました。まだ、現生人類との競合がフロレシエンシスの絶滅要因と断定するには時期尚早ですが、今後、リアンブア洞窟に限らずフローレス島での発掘・研究が進めば、5万年前頃に近い現生人類の痕跡が発見されるかもしれず、今後の研究の進展が期待されます。
参考文献:
Morley MW. et al.(2017): Initial micromorphological results from Liang Bua, Flores (Indonesia): Site formation processes and hominin activities at the type locality of Homo floresiensis. Journal of Archaeological Science, 77, 125–142.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jas.2016.06.004
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