篠田謙一「ホモ・サピエンスの本質をゲノムで探る」
これは6月30日分の記事として掲載しておきます。『現代思想』2016年5月号の特集「人類の起源と進化─プレ・ヒューマンへの想像力」に掲載された論文です。今では、人類進化の研究でDNA解析は欠かせなくなっています。本論文は、DNA解析の技術の発展やDNA解析に基づく人類進化の研究史にも言及しつつ、DNA解析により明らかになってきた人類の進化について、近年の研究成果を取り上げています。
この分野での近年の研究動向としてまず挙げられるのが、本論文も指摘している、現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のデニソワ人(Denisovan)といった他系統の人類との交雑が明らかになってきたことです。2009年までは、ネアンデルタール人と現生人類との交雑はなかった、との見解の方が優勢でしたし、デニソワ人は存在自体が知られていませんでした。ネアンデルタール人由来のゲノム領域は、各地域集団間で多少の差はあっても非アフリカ系現代人全員に見られ、デニソワ人由来のゲノム領域は、非アフリカ系現代人の一部地域集団にのみ見られます。アフリカ系現代人には、ネアンデルタール人やデニソワ人由来のゲノム領域は、皆無がごくわずかしか見られません。
本論文は、こうした現生人類と他系統の人類との交雑に関して、近年の諸研究成果を取り上げ、現生人類とネアンデルタール人との交雑の年代が絞り込まれつつあることや、現生人類とネアンデルタール人との交雑が複数回あったと推定されていることなどを取り上げています。また、ネアンデルタール人やデニソワ人のゲノム領域がランダムに現生人類に継承されたのではなく、特異的に排除された領域もあると考えられていることも指摘されています。
本論文は、DNA解析に基づく人類進化の近年研究成果を把握するのに有益ですが、やや問題だと思うのは、1987年にミトコンドリアDNAに基づく人類進化の研究が提示されるまで、現生人類多地域進化説が長い間定説になっていた、との認識です。現生人類多地域進化説自体、さほど歴史のある学説ではなく、1986年以前にすでに、これと対立する現生人類単一起源説も提示されていました。いわゆるミトコンドリアイヴ仮説により現生人類単一起源説が提唱されるようになったのではなく、ミトコンドリアイヴ仮説が現生人類単一起源説の説得力を高めた、ということなのだと思います。
参考文献:
篠田謙一(2016)「ホモ・サピエンスの本質をゲノムで探る」『現代思想』第44巻10号P57-67(青土社)
この分野での近年の研究動向としてまず挙げられるのが、本論文も指摘している、現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のデニソワ人(Denisovan)といった他系統の人類との交雑が明らかになってきたことです。2009年までは、ネアンデルタール人と現生人類との交雑はなかった、との見解の方が優勢でしたし、デニソワ人は存在自体が知られていませんでした。ネアンデルタール人由来のゲノム領域は、各地域集団間で多少の差はあっても非アフリカ系現代人全員に見られ、デニソワ人由来のゲノム領域は、非アフリカ系現代人の一部地域集団にのみ見られます。アフリカ系現代人には、ネアンデルタール人やデニソワ人由来のゲノム領域は、皆無がごくわずかしか見られません。
本論文は、こうした現生人類と他系統の人類との交雑に関して、近年の諸研究成果を取り上げ、現生人類とネアンデルタール人との交雑の年代が絞り込まれつつあることや、現生人類とネアンデルタール人との交雑が複数回あったと推定されていることなどを取り上げています。また、ネアンデルタール人やデニソワ人のゲノム領域がランダムに現生人類に継承されたのではなく、特異的に排除された領域もあると考えられていることも指摘されています。
本論文は、DNA解析に基づく人類進化の近年研究成果を把握するのに有益ですが、やや問題だと思うのは、1987年にミトコンドリアDNAに基づく人類進化の研究が提示されるまで、現生人類多地域進化説が長い間定説になっていた、との認識です。現生人類多地域進化説自体、さほど歴史のある学説ではなく、1986年以前にすでに、これと対立する現生人類単一起源説も提示されていました。いわゆるミトコンドリアイヴ仮説により現生人類単一起源説が提唱されるようになったのではなく、ミトコンドリアイヴ仮説が現生人類単一起源説の説得力を高めた、ということなのだと思います。
参考文献:
篠田謙一(2016)「ホモ・サピエンスの本質をゲノムで探る」『現代思想』第44巻10号P57-67(青土社)
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