細田晴子『カストロとフランコ 冷戦期外交の舞台裏』
これは6月29日分の記事として掲載しておきます。ちくま新書の一冊として、筑摩書房より2016年3月に刊行されました。私が近現代のスペインやキューバについてよく知らないということもあるのですが、カストロとフランコとは私にとって意外な組み合わせで興味深かったので、読んでみました。現代日本社会における一般的印象では、カストロが「左翼の英雄・革命家」であるのたいして、フランコの方は「(第二次世界大戦後も生き延びた)世渡りが上手く(時代遅れの)狡猾なファシスト」であり、両者は対照的な存在として認識されているように思います。
しかし本書は、両者の共通点が意外に多く、互いに一定以上の敬意を抱いていたのではないか、と論じています。両者の共通点とは、故郷としてのガリシア、ゲリラ戦の経験・理解、反米主義と愛国心、カトリックです。カストロの父とフランコはともにスペイン北部のガリシア出身であり、この地方の権威主義的・家長主義的影響を受けたのではないか、と本書は指摘しています。カストロとフランコは共に政府にたいして反乱を起こして権力を掌握しており、さらにフランコはモロッコ軍との砂漠での戦いも経験していたことから、両者ともにゲリラ戦の経験・理解がありました。
反米主義と愛国心も両者の共通点で、フランコは反共の立場から冷戦期に西側陣営に属しましたが、かつてスペインを破り、キューバをスペインから奪ったこともあるアメリカ合衆国にたいする反感は、根強いものだったようです。カトリックは、スペインとかつてスペインの勢力圏だったラテンアメリカとを精神的に強く結びつけています。スペインは第二次世界大戦後、国際的に孤立して国内で根深い対立要因を抱えるなか、国家統合の手段としてカトリックを大いに活用します。一方、カストロもカトリックの影響下で育ち、革命後のキューバは東側に属することになりましたが、東側では珍しく、バチカンとの国交を維持しました。本書は、このように共通点のある両者を、モラル重視の政治家として把握しています。
カストロとフランコという個性的な指導者同士に共通点が見られるということだけではなく、もちろんスペイン社会とキューバ社会にも、かつての宗主国と植民地という関係から人的・文化的・経済的結びつきが濃かったので、アメリカ合衆国からの断交圧力にも関わらず、スペインは革命後のキューバと国交を維持します。しかし、それは単なる情義的関係だったのでも、友好的であり続けたのでもなく、対立が珍しくなかったことも本書では指摘されています。ただそれでも、西側陣営の一員だったスペインが、冷戦期にもキューバと国交を維持してきたことの意義を本書は強調しています。冷戦を、東側と西側という二項対立的な観点だけで評価するのではなく、スペインとキューバとの関係のように、もっと多様な側面に注目すべきではないか、というわけです。
正直なところ、フランコとカストロとの関係についてこれまでほとんど考えたことがなく、冷戦期のスペインとキューバとの関係についても同様なので、新たな知見を得られました。日本はスペインおよびキューバと浅い関係というわけではないでしょうが、アメリカ合衆国や中華人民共和国や大韓民国と比較すると浅い関係であり、私も含めてスペインとキューバの関係に無知な日本人は多いことでしょう。私のような時間と能力の制約がある凡人が特定の分野に集中するのは仕方のないところだと思いますが、あまり関心を抱いておらず、ほとんど知らなかった分野の本を読むことも必要なのだな、と改めて思い知らされた一冊になりました。
しかし本書は、両者の共通点が意外に多く、互いに一定以上の敬意を抱いていたのではないか、と論じています。両者の共通点とは、故郷としてのガリシア、ゲリラ戦の経験・理解、反米主義と愛国心、カトリックです。カストロの父とフランコはともにスペイン北部のガリシア出身であり、この地方の権威主義的・家長主義的影響を受けたのではないか、と本書は指摘しています。カストロとフランコは共に政府にたいして反乱を起こして権力を掌握しており、さらにフランコはモロッコ軍との砂漠での戦いも経験していたことから、両者ともにゲリラ戦の経験・理解がありました。
反米主義と愛国心も両者の共通点で、フランコは反共の立場から冷戦期に西側陣営に属しましたが、かつてスペインを破り、キューバをスペインから奪ったこともあるアメリカ合衆国にたいする反感は、根強いものだったようです。カトリックは、スペインとかつてスペインの勢力圏だったラテンアメリカとを精神的に強く結びつけています。スペインは第二次世界大戦後、国際的に孤立して国内で根深い対立要因を抱えるなか、国家統合の手段としてカトリックを大いに活用します。一方、カストロもカトリックの影響下で育ち、革命後のキューバは東側に属することになりましたが、東側では珍しく、バチカンとの国交を維持しました。本書は、このように共通点のある両者を、モラル重視の政治家として把握しています。
カストロとフランコという個性的な指導者同士に共通点が見られるということだけではなく、もちろんスペイン社会とキューバ社会にも、かつての宗主国と植民地という関係から人的・文化的・経済的結びつきが濃かったので、アメリカ合衆国からの断交圧力にも関わらず、スペインは革命後のキューバと国交を維持します。しかし、それは単なる情義的関係だったのでも、友好的であり続けたのでもなく、対立が珍しくなかったことも本書では指摘されています。ただそれでも、西側陣営の一員だったスペインが、冷戦期にもキューバと国交を維持してきたことの意義を本書は強調しています。冷戦を、東側と西側という二項対立的な観点だけで評価するのではなく、スペインとキューバとの関係のように、もっと多様な側面に注目すべきではないか、というわけです。
正直なところ、フランコとカストロとの関係についてこれまでほとんど考えたことがなく、冷戦期のスペインとキューバとの関係についても同様なので、新たな知見を得られました。日本はスペインおよびキューバと浅い関係というわけではないでしょうが、アメリカ合衆国や中華人民共和国や大韓民国と比較すると浅い関係であり、私も含めてスペインとキューバの関係に無知な日本人は多いことでしょう。私のような時間と能力の制約がある凡人が特定の分野に集中するのは仕方のないところだと思いますが、あまり関心を抱いておらず、ほとんど知らなかった分野の本を読むことも必要なのだな、と改めて思い知らされた一冊になりました。
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