脊椎動物だった「タリーモンスター」

 これは5月7日分の記事として掲載しておきます。1958年にアメリカ合衆国イリノイ州で発見され、系統関係が不明だった「タリーモンスター」に関する二つの研究が公表されました。約3億年前の軟体性の化石動物「Tullimonstrum gregarium」は「タリーモンスター」として知られており、体は魚類に似ていて、眼は体の両側に突き出た棒状構造の先端にあり、関節のある長い吻の先端に顎があります。「タリーモンスター」の系統発生上の起源については、これまで紐形動物・多毛類の蠕虫・軟体動物・コノドント・ステム群節足動物など、さまざまな分類群との比較解析が行なわれてきましたが、系統的位置づけはまだ確定していません。

 今回公表された一方の研究(Clements et al., 2016)は「タリーモンスター」の眼を調べ、脊椎動物の眼との相同性を示す超微細構造の存在を明らかにしました。もう一方の研究(McCoy et al., 2016)は、1200点を超える標本を調べ、既知の多くの特徴を解釈し直し、多数の新たな特徴を記載して解釈しました。それらの特徴の全ては、「タリーモンスター」がヤツメウナギに似た脊椎動物であることと整合的です。これにより、脊椎動物という分類群の形態的多様性が拡大した、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


古生物学:Tullimonstrumの眼は脊椎動物との類似性を示す

古生物学:「タリーモンスター」は脊椎動物である

古生物学:米国イリノイ州の「タリーモンスター」の新解釈

 軟体性の化石動物Tullimonstrum gregariumは、1958年にFrancis Tullyが米国イリノイ州の約3億年前のメゾンクリーク化石鉱床で発見して以来、「タリーモンスター」として広く知られているが、その動物学的な類縁関係は謎に包まれたままだった。その外見は独特で、体は魚類に似ているが、眼は体の両側に突き出た棒状構造の先端にあり、関節のある長い吻の先端に顎がある。その系統発生上の起源については、これまで紐形動物や多毛類の蠕虫、軟体動物、コノドント、さらにはステム群節足動物など、さまざまな分類群との比較解析が行われてきたが、系統的位置付けはいまだに確定していない。今回、2つの研究チームが、Tullimonstrumは確実に脊椎動物であることを示している。T Clementsたちは眼を調べ、脊椎動物の眼との相同性を示す超微細構造の存在を明らかにした。一方、V McCoyたちは、1200点を超える標本を調べて、既知の多くの特徴を解釈し直し、多数の新たな特徴を記載および解釈した。それらの特徴の全ては、Tullimonstrumがヤツメウナギに似た脊椎動物であることと整合し、これによって脊椎動物という分類群の形態的多様性が拡大した。



参考文献:
Clements T. et al.(2016): The eyes of Tullimonstrum reveal a vertebrate affinity. Nature, 532, 7600, 500–503.
http://dx.doi.org/10.1038/nature17647

McCoy VE. et al.(2016): The ‘Tully monster’ is a vertebrate. Nature, 532, 7600, 496–499.
http://dx.doi.org/10.1038/nature16992

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