鈴木拓也『戦争の日本史3 蝦夷と東北戦争』

 これは5月6日分の記事として掲載しておきます。吉川弘文館より2008年12月に刊行されました。本書はおもに和銅2年の「征夷」から弘仁年間の「征夷」までを対象としています。おおむね、奈良時代全体と平安時代初期の日本国と蝦夷との関係を扱っている、と言えるでしょう。「征夷」とは当時の日本国にとってどのような意味があったのかということや、朝廷における「征夷」の手続きや、蝦夷とはどのような集団だったのかということや、戦いの発端・経緯・影響など、基本的な事柄が解説されているので、8世紀初頭から9世紀初頭にかけての日本国と蝦夷との関係についての入門書にもなっていると思います。

 興味深い見解としては、坂東という地域区分の成立経緯があります。坂東は律令国家の東北政策(「征夷」など)と密接に関わっており、その人的・物的基盤として成立した、とされています。桓武天皇が「造都」と「征夷」を徹底的に行なったことにより、後世の天皇は自らそれらを行なう必要がなくなった、との指摘も興味深いものです。桓武朝の「造都」と「征夷」により、天皇の政治的権威は安定化していき、幼帝出現の前提になったのではないか、との見通しが提示されています。

 桓武朝の「征夷」の結果、「征夷」は国家的課題から一地域の課題へと変容していった、とも指摘されています。それまで「征夷」に必要な人的・物的基盤は東国に求められていましたが、現地の陸奥・出羽の負担となりました。それにより、「征夷」のために疲弊した東国は「征夷」の負担から解放されていった、というわけです。また、日本の中央支配層には蝦夷からもたらされる(中継交易品も含めて)物資への需要があったものの、それは対等な立場での交易ではなく、略奪的性格も多分にあったことが指摘されています。

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