吉川真司『シリーズ日本古代史3 飛鳥の都』

 これは5月3日分の記事として掲載しておきます。岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店より2011年4月に刊行されました。本書は、飛鳥寺の創建から大宝律令の制定までを対象としています。文献のみならず、考古学など他分野の研究成果も積極的に取り入れているのが本書の特徴です。また、飛鳥時代史を「東アジア」の観点から考察するのは、現在では当然のこととなっていますが、その対象をユーラシア東部世界にまで広げているのも本書の特徴です。近年では、本書のようにユーラシア世界を意識した日本史叙述が増えているように思います。

 本書は全体的に堅実な通史となっていますが、現在の通説・有力説の叙述・紹介に終始しているのではなく、著者の見解がわりと前面に出ている感があります。とはいえ、著者の見解に大きな問題があるわけでもなさそうなので、さほど気になりませんでした。そうした著者の見解として注目されるのは、律令体制の形成過程で天智朝が画期となり、基本的な枠組みが形成された、ということと、天武朝は一括できるのではなく、天武10年が画期となる、との指摘です。全体的に本書では、天智朝での達成が高く評価されています。天皇号も、すでに天智朝までには採用されていた、との見解が提示されています。こうした問題については、今後も地道に調べていくつもりです。

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