気候変動によるネアンデルタール人の絶滅

 気候変動とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の絶滅との関係を検証した研究(Hodgkins et al., 2016)が報道されました。ネアンデルタール人の絶滅に関しては複数の要因が提示されています(関連記事)。この研究は、ネアンデルタール人の遺跡から発見された動物の骨を分析し、気候変動説を改めて検証しています。対象となったのは、フランスのペシュドゥラゼ4(Pech de l'Azé IV)遺跡とロックデマルサル(Roc de Marsal)遺跡です。

 この研究は、ペシュドゥラゼ4遺跡とロックデマルサル遺跡における、ネアンデルタール人による解体の痕跡の見られる動物の骨を、寒冷期と温暖期とにわけて分析しています。対象となった動物の骨は、おもにアカシカ(Cervus elaphus)・トナカイ(Rangifer tarandus)・ノロジカ(Capreolus caprelous)です。その結果、どちらの遺跡でも、寒冷期には温暖期よりも多くの解体痕(cut marks)と打撃痕(percussion marks)が見られました。

 これは、肉のみならず、骨髄を徹底的に消費するためだったのではないか、とこの研究は推測しています。寒冷期には温暖期よりも食料の入手が困難になったので、獲物からより多くのカロリーを摂取する必要があっただろう、というわけです。この研究は、そうした分析結果から、気候変動がネアンデルタール人の絶滅要因だったとする仮説を改めて支持しています。

 確かに、気候変動はネアンデルタール人の絶滅要因の一つと言えるのでしょうが、ネアンデルタール人は長期に亘って何度も気候変動を生き抜いてきたわけで、現生人類(Homo sapiens)が本格的に浸出してからわりと短期間でネアンデルタール人が絶滅しただろう、ということ(関連記事)を考えると、現生人類との競争がネアンデルタール人絶滅の根本的要因だった、と言えるように思います。


参考文献:
Hodgkins J. et al.(2016): Climate-mediated shifts in Neandertal subsistence behaviors at Pech de l'Azé IV and Roc de Marsal (Dordogne Valley, France). Journal of Human Evolution, 96, 1–18.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2016.03.009

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