統語規則に従っている鳥の鳴き声(追記有)
これは4月8日分の記事として掲載しておきます。鳥の鳴き声が統語規則に従っていることを明らかにした研究(Suzuki et al., 2016)が公表されました。発声のいろいろな要素を組み合わせ、そこから複合的な意味を引き出している合成的統語というプロセスは、これまでヒトの言語においてのみ記録されていました。この研究は、鳥類のシジュウカラ(Parus minor)を対象に検証し、鳥類にも合成的統語が存在することを示すとともに、こうした合成的統語は数少ない鳴き声のレパートリーによって伝達できる意味の数を増やす方法として進化した可能性がひじょうに高い、と指摘しています。
シジュウカラ科の鳥類は、異なる種類の音素(たとえば、A・B・C・D)によって構成される構造的に複雑な発声(たとえば、「チッカ」または「チッカ・ディー」という鳴き声)をします。シジュウカラの鳴き声のレパートリーには10種以上の音素があり、単独で用いる場合と複数の音素を組み合わせて用いる場合があります。シジュウカラは、2種類の「チッカ」(捕食者に近づかないように警告するための「ABC」と配偶相手に近づくように伝えるための「D」)を発することが知られていますが、こうした鳴き声を意味があるように組み合わせることができるのか否かは不明でした。
この研究は、シジュウカラ科の鳥類の鳴き声のレパートリーをさまざまに組み合わせた録音を同種の野生種に聴かせ、その応答を観察しました。その結果、この野生種が、ABCの鳴き声とDの鳴き声から異なる意味を引き出し、ABC-Dという組み合わせの鳴き声からは複合的な意味を引き出したことが明らかになりました。ABC-Dを聴いた野生種は、水平線を見渡して捕食者がいるか確かめる行動と音素が聞こえるスピーカーに近づく行動の両方をとり、ABCの鳴き声とDの鳴き声のいずれか一方だけを聴いた野生種が、それぞれの鳴き声に対応した行動をとるのと同様の結果になりました。これに対して、音素の順序を人工的に逆転させた場合(D-ABC)には、野生種の鳥は水平線を見渡すこともスピーカーに近づくこともしませんでした。この結果は、音素によって伝達される情報が、具体的な音素の順序に関する規則に従って組み合わされていることを示している、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【動物学】鳥の鳴き声は統語規則に従っている
シジュウカラ(Parus minor)が発声のいろいろな要素を組み合わせて、そこから複合的な意味を引き出していることを報告する論文が掲載される。この合成的統語というプロセスは、これまでヒトの言語においてのみ記録されていたが、動物のコミュニケーションがこれまで考えられていた以上に複雑なものである可能性が今回の研究で明らかになった。
シジュウカラ科の鳥類は、異なる種類の音素(例えば、A、B、C、D)によって構成される構造的に複雑な発声(例えば、「チッカ」または「チッカ・ディー」という鳴き声)をする。シジュウカラの鳴き声のレパートリーには、10種以上の音素があり、単独で用いる場合と複数の音素を組み合わせて用いる場合がある。シジュウカラは、2種類の「チッカ」(捕食者に近づかないように警告するための'ABC'と配偶相手に近づくように伝えるための'D')を発することが知られているが、こうした鳴き声を意味があるように組み合わせることができるのかどうかは分かっていなかった。
今回、鈴木俊貴(すずき・としたか)たちは、シジュウカラ科の鳥類の鳴き声のレパートリーをさまざまに組み合わせた録音を同種の野生種に聴かせて、その応答を観察した。その結果、この野生種が、ABCの鳴き声とDの鳴き声から異なる意味を引き出し、ABC-Dという組み合わせの鳴き声からは複合的な意味を引き出したことが判明した。実際、ABC-Dを聴いた野生種は、水平線を見渡して捕食者がいないかどうかを確かめる行動と音素が聞こえるスピーカーに近づく行動の両方をとり、ABCの鳴き声とDの鳴き声のいずれか一方だけを聴いた野生種が、それぞれの鳴き声に対応した行動をとるのと同様の結果になった。これに対して、音素の順序を人工的に逆転させた場合(‘D-ABC’)には、野生種の鳥は、水平線を見渡すこともスピーカーに近づくこともしなかった。この結果は、音素によって伝達される情報が、具体的な音素の順序に関する規則に従って組み合わされていることを示している。
今回の研究結果は、鳥類における合成的統語の存在を示す実験的証拠であり、合成的統語は、数少ない鳴き声のレパートリーによって伝達できる意味の数を増やす方法として進化した可能性が非常に高い。
参考文献:
Suzuki TN, Wheatcroft D, and Griesser M.(2016): Experimental evidence for compositional syntax in bird calls. Nature Communications, 7, 10986.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10986
追記(2016年5月10日)
『ネイチャー』の日本語サイトで筆者たちによる要約が掲載されていたので、以下に引用します。
鳥類の鳴き声における合成的統語の実験的証拠
ヒトの言語は、異なる有限の単語をつなぎ合わせ、無限の意味を作り出す組み合わせ規則(つまり合成的統語)に基づいている。いくつかの動物の音声においても異なる基本要素(音素)の組み合わせがみられるが、合成的統語がヒト以外の動物でも進化してきたのかどうかは、これまで明らかでなかった。今回我々は、野鳥の一種、シジュウカラ(Parus minor)を対象として、動物における合成的統語の存在を示す、初めての実験的証拠を得たので報告する。シジュウカラは、発声レパートリーに10種類以上の音素があり、それらの音素を単独で、もしくは他の音素と組み合わせて使う。音声をプレイバックし、反応を調べる実験を行ったところ、シジュウカラは「ABC」という音素群と「D」という音素からそれぞれ異なる意味(「警戒しろ」と「ここに集まれ」)を読み解き、「ABC-D」という組み合わせ音からは2つの意味を同時に理解することが明らかになった。しかし、組み合わせの順序を人工的に逆(「D-ABC」)にして聞かせた場合、シジュウカラはほとんど警戒も集まりもしなかった。したがって、合成的統語はヒトの言語に固有なものではなく、情報伝達の基本的機構の1つとして動物において独立に進化した可能性がある。
シジュウカラ科の鳥類は、異なる種類の音素(たとえば、A・B・C・D)によって構成される構造的に複雑な発声(たとえば、「チッカ」または「チッカ・ディー」という鳴き声)をします。シジュウカラの鳴き声のレパートリーには10種以上の音素があり、単独で用いる場合と複数の音素を組み合わせて用いる場合があります。シジュウカラは、2種類の「チッカ」(捕食者に近づかないように警告するための「ABC」と配偶相手に近づくように伝えるための「D」)を発することが知られていますが、こうした鳴き声を意味があるように組み合わせることができるのか否かは不明でした。
この研究は、シジュウカラ科の鳥類の鳴き声のレパートリーをさまざまに組み合わせた録音を同種の野生種に聴かせ、その応答を観察しました。その結果、この野生種が、ABCの鳴き声とDの鳴き声から異なる意味を引き出し、ABC-Dという組み合わせの鳴き声からは複合的な意味を引き出したことが明らかになりました。ABC-Dを聴いた野生種は、水平線を見渡して捕食者がいるか確かめる行動と音素が聞こえるスピーカーに近づく行動の両方をとり、ABCの鳴き声とDの鳴き声のいずれか一方だけを聴いた野生種が、それぞれの鳴き声に対応した行動をとるのと同様の結果になりました。これに対して、音素の順序を人工的に逆転させた場合(D-ABC)には、野生種の鳥は水平線を見渡すこともスピーカーに近づくこともしませんでした。この結果は、音素によって伝達される情報が、具体的な音素の順序に関する規則に従って組み合わされていることを示している、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【動物学】鳥の鳴き声は統語規則に従っている
シジュウカラ(Parus minor)が発声のいろいろな要素を組み合わせて、そこから複合的な意味を引き出していることを報告する論文が掲載される。この合成的統語というプロセスは、これまでヒトの言語においてのみ記録されていたが、動物のコミュニケーションがこれまで考えられていた以上に複雑なものである可能性が今回の研究で明らかになった。
シジュウカラ科の鳥類は、異なる種類の音素(例えば、A、B、C、D)によって構成される構造的に複雑な発声(例えば、「チッカ」または「チッカ・ディー」という鳴き声)をする。シジュウカラの鳴き声のレパートリーには、10種以上の音素があり、単独で用いる場合と複数の音素を組み合わせて用いる場合がある。シジュウカラは、2種類の「チッカ」(捕食者に近づかないように警告するための'ABC'と配偶相手に近づくように伝えるための'D')を発することが知られているが、こうした鳴き声を意味があるように組み合わせることができるのかどうかは分かっていなかった。
今回、鈴木俊貴(すずき・としたか)たちは、シジュウカラ科の鳥類の鳴き声のレパートリーをさまざまに組み合わせた録音を同種の野生種に聴かせて、その応答を観察した。その結果、この野生種が、ABCの鳴き声とDの鳴き声から異なる意味を引き出し、ABC-Dという組み合わせの鳴き声からは複合的な意味を引き出したことが判明した。実際、ABC-Dを聴いた野生種は、水平線を見渡して捕食者がいないかどうかを確かめる行動と音素が聞こえるスピーカーに近づく行動の両方をとり、ABCの鳴き声とDの鳴き声のいずれか一方だけを聴いた野生種が、それぞれの鳴き声に対応した行動をとるのと同様の結果になった。これに対して、音素の順序を人工的に逆転させた場合(‘D-ABC’)には、野生種の鳥は、水平線を見渡すこともスピーカーに近づくこともしなかった。この結果は、音素によって伝達される情報が、具体的な音素の順序に関する規則に従って組み合わされていることを示している。
今回の研究結果は、鳥類における合成的統語の存在を示す実験的証拠であり、合成的統語は、数少ない鳴き声のレパートリーによって伝達できる意味の数を増やす方法として進化した可能性が非常に高い。
参考文献:
Suzuki TN, Wheatcroft D, and Griesser M.(2016): Experimental evidence for compositional syntax in bird calls. Nature Communications, 7, 10986.
http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10986
追記(2016年5月10日)
『ネイチャー』の日本語サイトで筆者たちによる要約が掲載されていたので、以下に引用します。
鳥類の鳴き声における合成的統語の実験的証拠
ヒトの言語は、異なる有限の単語をつなぎ合わせ、無限の意味を作り出す組み合わせ規則(つまり合成的統語)に基づいている。いくつかの動物の音声においても異なる基本要素(音素)の組み合わせがみられるが、合成的統語がヒト以外の動物でも進化してきたのかどうかは、これまで明らかでなかった。今回我々は、野鳥の一種、シジュウカラ(Parus minor)を対象として、動物における合成的統語の存在を示す、初めての実験的証拠を得たので報告する。シジュウカラは、発声レパートリーに10種類以上の音素があり、それらの音素を単独で、もしくは他の音素と組み合わせて使う。音声をプレイバックし、反応を調べる実験を行ったところ、シジュウカラは「ABC」という音素群と「D」という音素からそれぞれ異なる意味(「警戒しろ」と「ここに集まれ」)を読み解き、「ABC-D」という組み合わせ音からは2つの意味を同時に理解することが明らかになった。しかし、組み合わせの順序を人工的に逆(「D-ABC」)にして聞かせた場合、シジュウカラはほとんど警戒も集まりもしなかった。したがって、合成的統語はヒトの言語に固有なものではなく、情報伝達の基本的機構の1つとして動物において独立に進化した可能性がある。
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