先コロンブス期アメリカ大陸の住民のミトコンドリアDNA
これは4月5日分の記事として掲載しておきます。先コロンブス期のアメリカ大陸の住民のミトコンドリアDNAを解析した研究(Llamas et al., 2016)が報道されました。この研究は、8600~500年前頃のアメリカ大陸の住民92人のミトコンドリアDNAを解析し、現代人のそれと比較しています。この92人は、おもに南アメリカ大陸で発見されています。この研究は、その解析・比較結果から、アメリカ大陸への人類最初の移住に関して新たな見解を提示しています。
アメリカ大陸への人類の移住は、冷戦後唯一の超大国(最近では中華人民共和国も超大国になりつつある、と言えるかもしれませんが)であり、世界の学術の中心となっているアメリカ合衆国にとって、自身のアイデンティティーに深く関わるということもあってか、広く世界で高い関心が寄せられ続けてきた、と言えるでしょう。この問題に関しては、しばしば激論が展開されてきており、アメリカ大陸には現生人類(Homo sapiens)ではない系統の人類は存在しなかった、ということは確固たる共通認識はとなっているでしょうが、「最初のアメリカ人」がいつどのように進出してきて拡散したのか、という問題については、現代でも定説が確立しているとは言い難いと思います。しかし近年では、人類がシベリア東部からベーリンジア(ベーリング陸橋)に進出し、ベーリンジアである程度の期間孤立して過ごした後、クローヴィス(Clovis)文化よりも前にアメリカ大陸に進出した、という見解が広く支持を集めつつあるように思います。
この研究でも、大枠ではそうした見解が改めて支持されました。アメリカ大陸先住民集団はベーリンジアに進出し、シベリア東部集団と氷期の24900~18400年前頃には明確に分岐して、2400~9000年ほどベーリンジアで孤立した後、ミトコンドリアDNAの系統が多様化し始める16000年前頃にアメリカ大陸に進出した、とこの研究は推定しています。またこの研究は、人類はベーリンジアから初めてアメリカ大陸へと進出した後、比較的短期間で南アメリカ大陸まで拡散し、それは海岸経路だったのではないか、と推測しています。このように短期間にアメリカ大陸に広く拡散し、その後は各地域集団が比較的孤立して進化してきたのではないか、というのがこの研究の見通しです。
またこの研究は、先コロンブス期アメリカ大陸の住民92人のミトコンドリアDNAが84のハプロタイプに分類されることを報告しています。これらのハプロタイプは、これまでに報告されている現代のアメリカ大陸先住民集団の変異幅に収まります。しかし、この84のハプロタイプと一致する(もしくはその直接の子孫と考えられる)ものは、これまでに報告されている現代のアメリカ大陸先住民集団には確認されませんでした。そのためこの研究は、「コロンブス以降」にヨーロッパ勢力がアメリカ大陸を植民化した結果、アメリカ大陸先住民集団のミトコンドリアDNA系統の多くが失われたのではないか、と推測しています。
この見解は、歴史学など他分野の研究成果とも整合的と言えるでしょう。やはり、「コロンブス以降」のヨーロッパ勢力によるアメリカ大陸の支配は、先住民集団に大打撃を与えたようです。今後は、この研究のような一定規模以上の詳細なDNA解析の対象を、ミトコンドリアに限らず核にも広げ、先コロンブス期と現代人のDNA解析数を蓄積してデータをさらに充実させることで、アメリカ大陸への人類の移住の経緯や、ヨーロッパ勢力によるアメリカ大陸支配の影響がどの程度のものだったのかということが、さらに詳細に把握できるのではないか、と期待されます。
参考文献:
Llamas B. et al.(2016): Ancient mitochondrial DNA provides high-resolution time scale of the peopling of the Americas. Science Advances, 2, 4, e1501385.
http://dx.doi.org/10.1126/sciadv.1501385
アメリカ大陸への人類の移住は、冷戦後唯一の超大国(最近では中華人民共和国も超大国になりつつある、と言えるかもしれませんが)であり、世界の学術の中心となっているアメリカ合衆国にとって、自身のアイデンティティーに深く関わるということもあってか、広く世界で高い関心が寄せられ続けてきた、と言えるでしょう。この問題に関しては、しばしば激論が展開されてきており、アメリカ大陸には現生人類(Homo sapiens)ではない系統の人類は存在しなかった、ということは確固たる共通認識はとなっているでしょうが、「最初のアメリカ人」がいつどのように進出してきて拡散したのか、という問題については、現代でも定説が確立しているとは言い難いと思います。しかし近年では、人類がシベリア東部からベーリンジア(ベーリング陸橋)に進出し、ベーリンジアである程度の期間孤立して過ごした後、クローヴィス(Clovis)文化よりも前にアメリカ大陸に進出した、という見解が広く支持を集めつつあるように思います。
この研究でも、大枠ではそうした見解が改めて支持されました。アメリカ大陸先住民集団はベーリンジアに進出し、シベリア東部集団と氷期の24900~18400年前頃には明確に分岐して、2400~9000年ほどベーリンジアで孤立した後、ミトコンドリアDNAの系統が多様化し始める16000年前頃にアメリカ大陸に進出した、とこの研究は推定しています。またこの研究は、人類はベーリンジアから初めてアメリカ大陸へと進出した後、比較的短期間で南アメリカ大陸まで拡散し、それは海岸経路だったのではないか、と推測しています。このように短期間にアメリカ大陸に広く拡散し、その後は各地域集団が比較的孤立して進化してきたのではないか、というのがこの研究の見通しです。
またこの研究は、先コロンブス期アメリカ大陸の住民92人のミトコンドリアDNAが84のハプロタイプに分類されることを報告しています。これらのハプロタイプは、これまでに報告されている現代のアメリカ大陸先住民集団の変異幅に収まります。しかし、この84のハプロタイプと一致する(もしくはその直接の子孫と考えられる)ものは、これまでに報告されている現代のアメリカ大陸先住民集団には確認されませんでした。そのためこの研究は、「コロンブス以降」にヨーロッパ勢力がアメリカ大陸を植民化した結果、アメリカ大陸先住民集団のミトコンドリアDNA系統の多くが失われたのではないか、と推測しています。
この見解は、歴史学など他分野の研究成果とも整合的と言えるでしょう。やはり、「コロンブス以降」のヨーロッパ勢力によるアメリカ大陸の支配は、先住民集団に大打撃を与えたようです。今後は、この研究のような一定規模以上の詳細なDNA解析の対象を、ミトコンドリアに限らず核にも広げ、先コロンブス期と現代人のDNA解析数を蓄積してデータをさらに充実させることで、アメリカ大陸への人類の移住の経緯や、ヨーロッパ勢力によるアメリカ大陸支配の影響がどの程度のものだったのかということが、さらに詳細に把握できるのではないか、と期待されます。
参考文献:
Llamas B. et al.(2016): Ancient mitochondrial DNA provides high-resolution time scale of the peopling of the Americas. Science Advances, 2, 4, e1501385.
http://dx.doi.org/10.1126/sciadv.1501385
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